Xで「柔術とレスリング、どっちがきつい?」という話題が盛り上がっていました。どちらの経験者も譲らず、見ていて楽しいやりとりです。
ちょうどそのころ、2026年10月6日に、レスリング選手と柔術選手の体力を同じテストで比べた研究が公開されました。両競技を同じ方法で直接比べた研究はほとんどないので、タイミングも含めて興味を引かれました。
先にお断りしておくと、この研究は「どっちがきついか」を測ったものではありません。調べたのは試合のきつさではなく、選手の体力がどう違うかです。それでも、それぞれの競技がどんな体を求めているのかは見えてきます。
どんな研究?
韓国の研究チーム(Lee & Moon 2026)による研究で、対象は男子のレスリング選手18名と柔術選手20名です。全員、競技歴6年以上・週4回以上の練習・直近6か月の全国レベルの大会で3位以内という条件を満たしています。
2つのグループは年齢(23歳前後)・体重(85kg前後)・競技歴(6〜7年)がほぼそろっていて、比べやすいデータです。そのうえで、握力、腕立て伏せ、上体起こし、柔軟性、ジャンプ、30秒間の全力ペダルこぎ、持久力の土台となる最大酸素摂取量などを比較しています。
結果1:持久力の土台は「差なし」
体にどれだけ酸素を取り込めるかを示す最大酸素摂取量は、レスリング63.1、柔術59.7(mL/kg/分)で、統計的に意味のある差はありませんでした。「スタミナの土台」という点では、両者はほぼ同じ水準と言えます。
結果2:一瞬の爆発力はレスリング
30秒間、全力で自転車をこぐテストの最大パワーは、レスリングのほうが高い結果でした。垂直跳び・立ち幅跳びもレスリングが上回っています。腕立て伏せ(60秒)の回数もレスリングのほうが多く、約52回対約45回でした。
著者らは、立った状態から相手を崩し、タックルや持ち上げを短時間にくり返すレスリングの特徴と一致する結果だと考察しています。
結果3:柔軟性と「体を丸める力」は柔術
座って前に体を倒す長座体前屈は柔術が14.3cm、レスリングが11.2cmで、今回の測定のなかで最も大きな差がつきました。上体を反らすテストや、上体起こし(60秒)の回数も柔術が上回っています。体幹の筋力測定でも、体を丸める方向の力は柔術が強いという結果でした。
ガードを保ったり、下から返したりと、寝た姿勢で腰や背中を大きく使い続ける柔術の特徴と合う、というのが著者らの見方です。
結果4:握力は、意外にも大差なし
「道着をつかみ続ける柔術のほうが握力は強いはず」と思う方も多いのではないでしょうか。実際には、左右の平均では差がありませんでした(レスリング44.5kg、柔術45.2kg)。右手だけは柔術がやや強かったものの、著者ら自身が「柔術選手のほうが全体的に握力が強い、とは解釈すべきでない」と書いています。
主な結果をまとめると
| 項目 | レスリング | 柔術 | 差 |
|---|---|---|---|
| 最大酸素摂取量(mL/kg/分) | 63.1 | 59.7 | 差なし |
| 30秒全力ペダルの最大パワー(W/kg) | 13.5 | 12.3 | レスリングが高い |
| 垂直跳び(cm) | 42.4 | 39.6 | レスリングが高い |
| 長座体前屈(cm) | 11.2 | 14.3 | 柔術が高い |
| 握力・左右平均(kg) | 44.5 | 45.2 | 差なし |
数値はいずれも各グループの平均値です(Lee & Moon 2026、査読前)。
まとめ
「どっちがきついか」に、この研究は答えていません。それでも結果を見ていると、経験者がそれぞれ「自分の競技のほうがきつい」と言うのは、ある意味で正しいのかもしれません。スタミナの土台は同じくらいでも、レスリング選手は爆発力、柔術選手は柔軟性と体を丸める力が高い。求められる体力の中身が、そもそもちがうからです。著者らも、同じ組み技の競技でも、体力の測り方やトレーニングはそれぞれの競技に合わせるべきだと結論づけています。
レスリングから柔術へ、柔術からレスリングへ挑戦する人にとって、新たな種目にチャレンジすることは自分の弱点を伸ばす、自分の本業の成長へとつながるチャンスかもしれません。どちらの競技にも、それぞれの奥深さ、必要となる身体能力があります。
柔術家の皆さん、レスリングはめちゃくちゃきついかもしれませんが、是非チャレンジしてみてください!楽しいですよ!
参照論文
- Lee DH, Moon SE. Comparison of Physical Fitness and Isokinetic Muscle Function Between Wrestlers and Brazilian Jiu-Jitsu Athletes: A Cross-Sectional Study. Research Square. 2026年10月6日公開(プレプリント・査読前). https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-11095685/v1
※ 本記事は、上記論文の全文(CC BY 4.0で公開)を確認したうえで書いています。査読を経て内容が変わる可能性があります。
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