【2026アジア大会 愛知・名古屋】日本15メダル― DI指数で読み解く全18階級

アジア大会2026 愛知・名古屋 DI指数で読み解く全18階級 Uncategorized

🌍 Available in English:Asian Games 2026 Aichi-Nagoya: Japan Wins 15 Medals – All 18 Weight Classes Through the DI Lens

はじめに

第20回アジア競技大会(2026 Aichi-Nagoya)のレスリング競技が、2026年9月30日から10月3日まで、名古屋市稲永スポーツセンターで行われました。4年に1度の大舞台であり、しかも地元開催。日本代表は、通常の国際大会より一段と気持ちが入る大会だったことでしょう。

結果は 金7・銀4・銅4、合計15個のメダル。女子は出場6階級のうち5階級で金を獲得し、グレコローマンスタイルでは2名の金メダリストが誕生するメダルラッシュの4日間となりました。

本記事では、1試合あたりの圧倒度を示す独自指標 DI(Dominance Index、圧倒度指数) の視点を交えながら、注目階級と全18階級の結果を一気に振り返ります。

DI(圧倒度指数)とは何か ― 試合時間に左右されない「勝ち方の質」

同じ金メダルでも試合の中身(勝ち方)は大きく異なります。そこで本記事では、金メダリストたちが「どれだけ圧倒的に試合を進めたか」を1つの数字にまとめるために、DI(Dominance Index、圧倒度指数) という独自指標を使います。

  • DI = TPdiff/試合 + CPdiff
  • TPdiff/試合 … 1試合あたりの技術点差。(総得点 − 総失点) ÷ 試合数で計算します。
  • CPdiff … 1試合あたりの勝ち点差。VFA(フォール勝ち)= 5点、VSU(テクニカル勝ち)= 4点、VPO(判定勝ち)= 3点などの決着型ごとの点数で、(自分のCP合計 − 相手のCP合計) ÷ 試合数で算出します。

要するに、1試合あたりでどれだけ技術点を積み上げたか(TPdiff/試合)と、どれだけ「圧倒的な勝ち方」で勝ったか(CPdiff)を足し合わせた数字です。VPOで接戦を競り勝つより、VSUやVFAで大差をつけて勝ち上がる方がDIは高くなります。

この指標は、UWW Performance Data Analysis の Slacanac博士が提唱する MSW(Most Successful Wrestler) を参考に組み直したものです。MSWは1分あたりの得失点差を使う設計ですが、公式サイトに試合時間データが掲載されておらず、推定値に頼らざるを得ませんでした。そこで本記事では、試合時間を一切使わない形で再構成した独自指標DI を採用しています。「同じ金メダルでも、強さの内訳は違う」ことを数値化する発想はMSWと共通で、計算に試合時間を使わない点だけが異なります。

カテゴリ別ハイライト

女子(WW)― 6階級5金の躍進

  • 50kg 須﨑優衣選手(キッツ・金):決勝で北朝鮮のKIM Son Hyang選手に 10-0 VSU。パリ五輪金に続き、安定感を数字で示しました。
  • 53kg 清岡もえ選手(ALSOK・金):インドのANTIM選手に 9-1 VPO1。
  • 62kg 尾﨑野乃香選手(慶大OG・金):北朝鮮のKIM Ok Ju選手を 3-0 VPO で下しての金。
  • 68kg 石井亜海選手(クリナップ・金):北朝鮮のPAK Sol Gum選手に 7-2 VPO1。
  • 76kg 鏡優翔選手(サントリー・金):カザフスタンのSYZDYKOVA選手を 5-1 VPO1。
  • 57kg 藤波朱理選手(レスター・銅):準決勝で北朝鮮のSON Il Sim選手にフォール負け。

女子は、6階級中5階級で金。日本女子レスリングの強さを他国に知らしめる大会となりました。

男子フリースタイル(FS)― 金ゼロ、銀2・銅2の計4メダル

男子フリーは6階級で金なし。決勝進出は 74kg 青柳善の輔選手(クリナップ・銀) と 86kg 石黒隼士選手(自衛隊・銀) の2階級でした。65kg 清岡幸大郎選手(カクシングループ・銅) は準決勝でSUJEET選手に 3-3 判定負けを喫したものの、銅メダル戦でEBRAHIMZADEHSAVADKOUHI選手に 3-2 で勝ち切って銅。97kg 吉田アラシ選手 も銅を獲得しました。一方、57kg 小川大和選手 は銅メダル戦でBELOLYUBSKII選手に 1-1 判定負けを喫し、惜しくも5位でした。6階級で銀2・銅2の計4メダルという結果になりました。

グレコローマン(GR)― 87・97kgで日本が金

  • 87kg 吉田泰造選手(日本体育大学・金):キルギスのZHANYSHOV選手を 11-1 VSU1 で圧勝。DIで見ても TPdiff・CPdiff の両面で全階級トップクラスの勝ち上がりでした。
  • 97kg 仲里優力選手(松尾建設・金):インドのNITESH選手を 4-0 VPO で完封。守りの固さが光った決勝でした。

グレコ陣は60kg鈴木絢大選手の銅、67kg曽我部京太郎選手の銀、77kg日下尚選手の銀を加え、6階級で5つのメダルを獲得しました。

全18階級の結果一覧

階級 金 銀 銅
FS 57kg AMAN (IND) HAN Chong Song (PRK) ZOU Wanhao (CHN) / BELOLYUBSKII Aiaal (TJK)
FS 65kg SUJEET (IND) KUDIEV Abdulmazhid (TJK) 清岡幸大郎 (JPN) / KUULAR Nachyn (KAZ)
FS 74kg EMAMICHOGHAEI (IRI) 青柳善の輔 (JPN) RASSADIN (TJK) / KAIPANOV (KAZ)
FS 86kg NOKHODILARIMI (IRI) 石黒隼士 (JPN) OLONBAYAR (MGL) / SHAVAEV Malik (KGZ)
FS 97kg AZARPIRA (IRI) POYONOV (UZB) PUNIA (IND) / 吉田アラシ (JPN)
FS 125kg ZARE Amir Hossein (IRI) BUHEEERDUN (CHN) SHARIPOV (BRN) / KASSIMBEK (KAZ)
GR 60kg SHARSHENBEKOV (KGZ) GANIEV (UZB) ALBIDHAN (IRQ) / 鈴木絢大 (JPN)
GR 67kg KHALMAKHANOV (UZB) 曽我部京太郎 (JPN) BEISHEKEEV (KGZ) / SHERMAKHANBET (KAZ)
GR 77kg ABDEVALI (IRI) 日下尚 (JPN) MAKHMUDOV (KGZ) / BADAGHIMOFRAD (QAT)
GR 87kg 吉田泰造 (JPN) ZHANYSHOV (KGZ) BERDIMURATOV (UZB) / SUNIL KUMAR (IND)
GR 97kg 仲里優力 (JPN) NITESH (IND) GANBAATAR (MGL) / BALIHAMZEHDEH (IRI)
GR 130kg MIRZAZADEH (IRI) TSITSUASHVILI (UZB) MENG Lingzhe (CHN) / KIM Minseok (KOR)
WW 50kg 須﨑優衣 (JPN) KIM Son Hyang (PRK) BAYANOVA (KAZ) / FENG Ziqi (CHN)
WW 53kg 清岡もえ (JPN) ANTIM (IND) ZHANG Jin (CHN) / BAYANMUNKH (MGL)
WW 57kg HONG Kexin (CHN) SON Il Sim (PRK) RAIMOVA (KAZ) / 藤波朱理 (JPN)
WW 62kg 尾﨑野乃香 (JPN) KIM Ok Ju (PRK) TOGTOKH (MGL) / ZHANG Qi (CHN)
WW 68kg 石井亜海 (JPN) PAK Sol Gum (PRK) ZHUMANAZAROVA (KGZ) / LONG Jia (CHN)
WW 76kg 鏡優翔 (JPN) SYZDYKOVA (KAZ) MEDET KYZY (KGZ) / LI Wenji (CHN)

DI指数ランキング(スタイル別)

各金メダリストの試合データ(全ラウンド)から、DI(Dominance Index、圧倒度指数)を算出しました。数字が高いほど「相手に大差をつけ、質の高い勝ち方を積み上げた」ことを示します。

男子フリースタイル(FS)DIランキング

順位 階級 国 選手 試合 TP (+/−) CP (+/−) DI
1 97kg IRI AZARPIRA Amirali 4 34-3 15-1 11.25
2 125kg IRI ZARE Amir Hossein 4 36-5 15-2 11.00
3 57kg IND AMAN AMAN 4 57-25 14-4 10.50
4 86kg IRI NOKHODILARIMI Mohammad 4 34-7 14-2 9.75
5 65kg IND SUJEET SUJEET 4 36-15 14-3 8.00
6 74kg IRI EMAMICHOGHAEI Yones 4 30-13 13-3 6.75

男子フリーは6階級すべてをイラン(4)とインド(2)が独占。日本代表は銀2・銅2で4階級にメダルを残しましたが、金はゼロ。FS全体のDI最高値は 11.25(AZARPIRA選手)で、WW・GR上位陣(最高14.00)に迫りつつもあと一歩届かない水準の金メダリストが並びました。吉田アラシ選手との一戦は物議をかもしておりますが、きっと世界選手権では吉田アラシ選手がリベンジを果たしてくれるはずです!

男子グレコローマン(GR)DIランキング

順位 階級 国 選手 試合 TP (+/−) CP (+/−) DI
1 87kg JPN 吉田 泰造 3 32-1 12-1 14.00
2 60kg KGZ SHARSHENBEKOV Zholoman 4 32-5 15-1 10.25
3 77kg IRI ABDEVALI Alireza 3 22-3 11-1 9.67
4 67kg UZB KHALMAKHANOV Aytjan 4 25-2 14-1 9.00
5 97kg JPN 仲里 優力 3 19-4 10-1 8.00
6 130kg IRI MIRZAZADEH Amin 3 11-2 9-2 5.33

吉田泰造選手がGR全体の1位、全18階級でも最上位タイのDI 14.00。3試合すべてをVSU/VSU1で決着させ、TP 32-1・CP 12-1。「圧勝型」の金メダリストの典型でした。仲里優力選手は5位ですが、3試合でTP 19-4・CP 10-1と、守備重視の堅実な勝ち上がり。日本人選手がこの階級で優勝すること自体がすごいことです。

女子レスリング(WW)DIランキング

順位 階級 国 選手 試合 TP (+/−) CP (+/−) DI
1 53kg JPN 清岡 もえ 4 43-1 15-1 14.00
2 50kg JPN 須﨑 優衣 4 35-0 17-0 13.00
3 57kg CHN HONG Kexin 4 33-2 16-1 11.50
4 62kg JPN 尾﨑 野乃香 3 21-0 10-0 10.33
5 68kg JPN 石井 亜海 4 35-8 15-2 10.00
6 76kg JPN 鏡 優翔 3 20-4 10-2 8.00

女子は6階級中5階級の金メダリストが日本代表。全体の1位・2位も日本(清岡もえ選手・須﨑選手)でした。清岡もえ選手のDI 14.00は、吉田泰造選手と並んで全18階級の金メダリストで最高値タイ。4試合でTP 43-1・CP 15-1と、1試合あたり10.5点差+3.5点差を積み上げた圧巻の勝ち上がりでした。須﨑選手も全4試合完全無失点のCP 17-0でDI 13.00の2位となり、日本の女子2トップが数値でも際立つ結果となっています。

全スタイル横断で見ると

全18階級のDIトップは、1位タイ 吉田泰造(GR 87kg・14.00)/清岡もえ(WW 53kg・14.00)、3位 須﨑優衣(WW 50kg・13.00) と 日本代表が独占。「金の数(7個)」だけでなく「圧倒的な勝ち方」でも日本の強さを見せつけた大会でした。一方で、男子フリースタイルは最高DIが11.25で、WW・GR上位陣とは2〜3点程度の差がついた形になっています。

※ DIは試合時間を使わない独自指標です(Slacanac MSW は1分あたりの得失点差を使う設計ですが、公式試合時間データが未公開のため、本記事では試合時間を使わない形で組み直したDIを採用しています)。

総評

総メダル数15個という素晴らしい成績でしたが、内訳を見ると、女子5金・グレコ2金・男子フリー金なし という偏りがはっきり浮かび上がります。

女子は、須﨑選手・清岡もえ選手・尾﨑選手・石井選手・鏡選手の5人が金。パリ五輪・世界選手権で培った戦術の引き出しが、地元開催の重圧下でも機能しました。一方、男子フリーは6階級で2銀2銅、計4個のメダルを取りながらも、イラン・インドの壁を越えられませんでした。74kg青柳選手、86kg石黒選手の2選手は、どちらも決勝で接戦に持ち込みながらの銀。65kg清岡選手は準決勝でSUJEET選手に 3-3 判定負けを喫したものの、銅メダル戦で勝ち切って銅を獲得しました。57kg小川大和選手は銅メダル戦でBELOLYUBSKII選手に 1-1 判定負けを喫して5位。メダルの数、色だけを見ると女子やグレコに見劣りしますが、内容は接戦負けが多くそこまで悲観的になるものではないかと思いました。

グレコは87kg吉田選手・97kg仲里選手の2金に、67kg・77kgの銀、60kgの銅を加えた5メダル。国別対抗戦は実施されておりませんが、もし実施されていれば1位という堂々の成績でした(pinfallさん情報)。

おわりに

次の国際大会は、2026年の世界選手権です。吉田アラシ選手の惜敗、そしてフリー選手たちの巻き返しが期待されます。今の日本のレスリングは本当に強いです。世界選手権でもきっと日本人選手たちが大暴れしてくれるはずです。みんなで応援しましょう!

「選手が強かった/弱かった」という総括を一歩越えて、どれだけ失点したか?どのような勝ち方だったか?を数字で読み解く。本記事をきっかけにそういう視点をもっていただければ嬉しいです。


書籍のご案内

著者(南山大学講師・伊藤奨)が、現場・研究・コーチングの3つの視点からレスリングを読み直した書籍 『レスリングを探求する ― 科学と現場が導き出す「答えのない競技」の解剖図鑑 ―』(2026年9月発売)では、レスリングに必要な体力要素や考え方を1冊にまとめています。自分のレスリングを振り返りたい、我が子のレスリングの成長をサポートしたい方は、ぜひ手に取ってみてください。

Amazonで見る → https://www.amazon.co.jp/dp/B0HHQ1FDPG

著書『レスリングを探求する』発売中(紙の本・Kindle)
Amazon売れ筋ランキング「格闘技」(Kindleストア)1位獲得(2026年10月15日時点)
『レスリングを探求する』表紙

レスリングの見えにくい仕組みを、科学と現場の両面から一冊にまとめました。選手・指導者・保護者に向けた「答えのない競技」の解剖図鑑です(Kindle版1,250円/紙の本2,500円・Kindle Unlimited対応)。

紙の本を見る(2,500円)→Kindle版を見る(1,250円)→

新しい記事や書籍の情報は公式LINEでお届けします。/書籍紹介ページはこちら

コメント

タイトルとURLをコピーしました