【2026世界選手権 アスタナ】グレコローマン五味虹登選手が金 ― MSWで読み解く全10階級

世界選手権2026 アスタナ 男子グレコローマン MSWで読み解く全10階級 大会分析

🌍 Available in English:2026 World Championships in Astana: Japan’s Gomi Koto Wins Greco-Roman Gold – All 10 Weight Classes Through the MSW Lens

はじめに

2026年のシニア世界選手権が、カザフスタンのアスタナで開催されました。男子グレコローマンは10月24日から27日までの4日間。55、60、63、67、72、77、82、87、97、130kgの全10階級で、世界一が決まりました。

日本勢の最大のニュースは、60kg級の五味虹登選手の金メダルです。報道によれば、22歳で世界選手権は初出場。準々決勝ではパリ五輪銀メダルの中国のCAO Liguo選手、準決勝では昨年王者のカザフスタンのSULTANGALI Aidos選手を破っての優勝でした。

本記事では、UWW(世界レスリング連合)の公式データをもとに、全10階級の金メダリストの勝ち方を MSW という指標で比べます。あわせて、階級ごとの結果と、日本代表10人の戦いぶりを振り返ります。

MSWとは ― 試合時間まで使う「勝ち方の質」の指標

MSW(Most Successful Wrestler)は、UWW Performance Data Analysis の Slacanac博士が提唱する指標です。同じ金メダルでも、「どれだけ短い時間で、どれだけ大きな差をつけて、どんな勝ち方で」勝ち上がったかは、選手ごとに違います。MSWは、その違いを1つの数字にまとめます。

  • MSW = WQ + CPdiff
  • WQ… 1分あたりの得失点差。(得点の合計 − 失点の合計) ÷ 全試合の合計時間(分)で計算します。
  • CPdiff … 1試合あたりのCP差。(CP獲得の合計 − CP失点の合計) ÷ 試合数で計算します。CPは勝ち方で決まる勝ち点で、VFA(フォール勝ち)= 5点、VSU(8点差がついて終了するテクニカル勝ち)= 4点、VPO(判定勝ち)= 3点です。VSU1・VPO1のように「1」がつく場合は、負けた側にも得点があり、負けた側に1点が入ります。

要するに、WQは「どれだけ速く点差を広げたか」、CPdiffは「どれだけ質の高い勝ち方を重ねたか」を表します。短い時間で大差をつけ、フォールやVSUで勝ち上がるほど、MSWは高くなります。

今回は、UWW公式データの試合ごとの記録から、試合時間まで確認できました。そのため、推定値は使わず、本来のMSWで計算しています。試合時間は、試合時計の終了時間です。判定勝ち(VPO・VPO1)は、公式記録上6:00として記録されているため、そのまま使っています。棄権や失格で終わった試合は、実際に競い合った試合ではないため、計算から除外します。今回の該当は、HEDAYATI選手の予選の1試合だけです。

金メダリストのMSWランキング

10人の金メダリストを、MSWの高い順に並べました。

順位 階級 国 選手 試合 合計時間 TP(得点-失点) CP(獲得-失点) MSW
1 130kg IRI HEDAYATI Fardin 4 6:58 34-0 16-0 8.88
2 72kg IRI SOHRABI Danial 4 13:33 32-0 15-0 6.11
3 63kg ARM ASLANYAN Karen 5 14:48 47-8 19-2 6.04
4 67kg IRI ESMAEILI Saeid 5 18:25 37-3 19-2 5.25
5 55kg AZE AZIZLI Eldaniz 4 15:28 25-2 14-2 4.49
6 82kg IRI FAROKHISENJANI Gholamreza 4 18:38 25-4 15-2 4.38
7 77kg AZE SULEYMANOV Sanan 5 22:35 32-4 17-2 4.24
8 60kg JPN 五味 虹登 4 18:52 29-13 15-3 3.85
9 87kg BUL NOVIKOV Semen 5 26:23 22-5 17-1 3.84
10 97kg BLR MASKEVICH Kiryl 4 24:00 26-13 12-4 2.54

※ TPは試合で取った得点の合計、CPは勝ち方による勝ち点の合計です。MSWは、UWW公式データの試合ごとの記録から計算し、小数第2位で四捨五入しています。HEDAYATI選手は、予選の1試合(相手の負傷棄権・0:11)を除いた4試合で計算しています。

注目ポイント

1. 1位は130kg級のHEDAYATI選手 ― MSW 8.88

イランのHEDAYATI Fardin選手が、MSW 8.88で1位になりました。2位のSOHRABI選手(6.11)との差は、約2.8点です。4試合で得点34、失点0。CPも16-0でした。4試合の合計時間は、わずか6分58秒。決勝は、8-0のVSUを0分42秒で決めています。

予選の1試合は、相手の負傷棄権(VIN)で、0分11秒で終わりました。実際に競い合った試合ではなく、合計時間を大きく縮めてしまうため、この試合はMSWの計算から除外しています。含めて計算しても、MSWは9.51で、1位は変わりません。

2. 五味虹登選手は10人中8位 ― MSW 3.85

五味選手のMSWは3.85で、10人中8位でした。内訳は、WQが0.85、CPdiffが3.00です。

最初の試合(1/8決勝)は、12-4のVSU1(2分39秒)で勝ちました。準々決勝と準決勝は、6分間を戦い切っての判定勝ち(7-1、5-1)です。決勝は、5-7とリードされた展開から、4分13秒でフォール勝ちしました。

4試合で取った得失点差は16点(29-13)です。これを合計時間の18分52秒で割ると、WQは0.85になります。決勝のフォール勝ちでCPは満点の5点を得ましたが、得点は5-7と相手が上回っていたため、WQの計算では-2点として数えられます。CPdiffの3.00は、55kg級のAZIZLI選手、77kg級のSULEYMANOV選手と同じ値です。9位のNOVIKOV選手(3.84)とは、ほぼ同じ数字でした。

MSWは、「短い時間で大差をつける勝ち方」を評価する指標です。強い相手を次々に破り、決勝を逆転のフォールで決めた五味選手の価値を、この数字が下げるわけではありません。

3. イラン勢が10階級中4階級で金

イランの金メダルは、130kg、72kg、67kg、82kgの4階級です。MSWの上位4人のうち3人も、イランの選手でした(1位HEDAYATI選手、2位SOHRABI選手、4位ESMAEILI選手)。82kg級のFAROKHISENJANI選手は6位です。HEDAYATI選手とSOHRABI選手の2人は、全試合を通して、1点も得点を許していません。

残る6階級は、アゼルバイジャンが55kg・77kg、アルメニアが63kg、日本が60kg、ブルガリアが87kg、ベラルーシが97kgで金を獲得しました。

4. MSW最下位は97kg級のMASKEVICH選手 ― 2.54

ベラルーシのMASKEVICH Kiryl選手は、MSW 2.54で10位でした。4試合すべてが、6分間を戦い切っての判定勝ち(VPO1)です。7-3、5-4、7-5、7-1と、毎試合相手に得点を許す接戦を、1つずつ勝ち切って金メダルに届きました。87kg級のNOVIKOV選手も、最初の試合でフォール勝ちしたあとは、4試合連続の判定勝ちで頂点に立っています(MSW 3.84)。

階級別ハイライト

全10階級の金・銀・銅と、決勝のスコア・決着型です。スコアは優勝者の得点が先で、国はUWW公式の国コードです。

階級 金 銀 銅 決勝
55kg AZIZLI (AZE) AHMADI BALOOTAKI (IRI) KURBAYEV (KAZ) / LOLUA (GEO) 3-1 VPO1
60kg 五味 虹登 (JPN) AHMADI VAFA (IRI) SULTANGALI (KAZ) / GANIEV (UZB) 5-7 VFA(4:13)
63kg ASLANYAN (ARM) MAMMADLI (AZE) KHALIMBOEV (UZB) / EMELIN (RUS) 8-4 VPO1
67kg ESMAEILI (IRI) KHALMAKHANOV (UZB) ORTA SANCHEZ (CUB) / SABAZ (KAZ) 8-0 VFA(2:22)
72kg SOHRABI (IRI) VANCZA (HUN) ISMAILOV (KGZ) / LOMADZE (GEO) 4-0 VPO
77kg SULEYMANOV (AZE) GUTU (MDA) MAMEDAU (BLR) / OSKOU (IRI) 8-3 VPO1
82kg FAROKHISENJANI (IRI) SARICICEK (TUR) MAKHMUDOV (KGZ) / BRADU (MDA) 7-1 VPO1
87kg NOVIKOV (BUL) MOHMADIPIANI (IRI) TADEVOSYAN (ARM) / GOBADZE (GEO) 4-0 VPO
97kg MASKEVICH (BLR) SARGSIAN (RUS) SARAVI (IRI) / MILOV (BUL) 7-1 VPO1
130kg HEDAYATI (IRI) VITEK (HUN) JIANG (CHN) / HLINCHUK (BLR) 8-0 VSU(0:42)

各階級の見どころです。

  • 55kg級(出場23人):AZIZLI選手は、最初の2試合を連続のVSU(1分43秒、1分45秒)で勝ち上がりました。準決勝と決勝は、6分間の判定勝ちです。MSWは5位の4.49でした。
  • 60kg級(出場24人):五味選手が優勝しました。決勝は、相手に5-7とリードされた展開から、4分13秒でフォール勝ち。銅メダル戦は、五味選手が準々決勝で破ったCAO選手(CHN)と、準決勝で破ったSULTANGALI選手(KAZ)の対戦になり、SULTANGALI選手が5-1で勝ちました。
  • 63kg級(出場26人):ASLANYAN選手は、決勝以外の4試合をすべてVSU(またはVSU1)で勝ち上がりました。1/8決勝は0分40秒で決着しています。決勝は8-4の判定勝ちで、MSWは3位の6.04でした。
  • 67kg級(出場31人):ESMAEILI選手は、決勝を2分22秒のフォール勝ち(8-0)で決めました。準々決勝(7-2)と準決勝(1-1)は判定勝ちです。
  • 72kg級(出場27人):SOHRABI選手は、4試合で1点も許さず(32-0)、最初の3試合はVSUで勝ち上がりました。MSWは2位の6.11です。
  • 77kg級(出場31人):SULEYMANOV選手は、予選(1回戦)で日本の堀北一咲望選手に8-0(2分18秒)で勝ち、そのまま金メダルまで勝ち上がりました。
  • 82kg級(出場25人):FAROKHISENJANI選手は、1/8決勝でフォール勝ち(4分18秒)、準々決勝はVSUでした。準決勝(3-3)と決勝(7-1)は判定勝ちで、MSWは6位の4.38です。
  • 87kg級(出場32人、10階級で最多):NOVIKOV選手は、1回戦(1/16決勝)でフォール勝ち(2分23秒)。その後は、4試合連続で6分間の判定勝ちでした。決勝は4-0です。
  • 97kg級(出場28人):MASKEVICH選手は、4試合すべてが判定勝ち(VPO1)で、決勝は7-1でした。
  • 130kg級(出場26人):HEDAYATI選手は、決勝を8-0のVSUで、0分42秒で決めました。

日本代表の結果

日本代表は10人が出場しました。五味選手以外の9人の結果です。スコアは日本選手の得点が先です。

  • 55kg 岡本景虎選手(専修クラブ):予選(1回戦)で、のちに銅メダルを獲得するKURBAYEV選手(KAZ)に2-5で敗れました。
  • 63kg 田南部魁星選手(ミキハウス):予選(1回戦)と1/8決勝を、ともに9-0のVSU(2分57秒、2分27秒)で勝ち上がりました。準々決勝でEMELIN選手(RUS)に1-10で敗れ、EMELIN選手が準決勝で敗れたため、敗者復活戦には進めませんでした。EMELIN選手は銅メダルを獲得しています。
  • 67kg 遠藤功章選手(株式会社東和エンジニアリング):予選(1回戦)で、CHKHIKVADZE選手(GEO)に0-9のVSU(1分49秒)で敗れました。
  • 72kg 曽我部凜大郎選手(有限会社aiwa benefit):予選(1回戦)でKARANJIT選手(IND)に3-2で勝ち、1/8決勝でGANIZADE選手(AZE)に4-9で敗れました。
  • 77kg 堀北一咲望選手(宮崎県スポーツ協会):予選(1回戦)で、のちに金メダルを獲得するSULEYMANOV選手(AZE)に0-8で敗れ、敗者復活戦に回りました。敗者復活戦の1回戦では、YAO選手(TPE)に5-5の判定で勝ちましたが、2回戦でNAKIBOV選手(UZB)に1-6で敗れました。
  • 82kg 藤井達哉選手(栗東市役所):予選(1回戦)で、BERNAL MOLINA選手(CHI)に9-1(5分30秒)で勝ちました。1/8決勝でBRADU選手(MDA)に0-9で敗れました。BRADU選手は、のちに銅メダルを獲得しています。
  • 87kg 阪部創選手(自衛隊体育学校):1回戦で、STJEPANETIC選手(SWE)に1-3で敗れました。
  • 97kg 鶴田峻大選手(自衛隊):予選(1回戦)で、RAGGINGER選手(AUT)に1-4で敗れました。
  • 130kg 奈良勇太選手(警視庁):予選(1回戦)で、SOTNIKOV選手(ITA)に0-9のVSU(0分46秒)で敗れました。

おわりに

2026年の世界選手権・男子グレコローマンは、五味虹登選手の金メダルが、日本にとって最大のニュースでした。MSWは10人中8位の3.85ですが、決勝は5-7とリードされた展開から、フォールで試合をひっくり返しての優勝です。世界の頂点に立った事実は、この順位で変わりません。

MSWは、勝ち方の中身を知るための1つのものさしです。「誰が上か」を決めるためではなく、「どんな勝ち方だったのか」を知るために使っていただければ嬉しいです。

大会は11月1日まで続きます。日本代表を最後まで応援しましょう!


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