燃え尽き症候群に関連する要因は男女で違う?

思春期アスリート638名のデータが示した、燃え尽きと動機の男女差(連載第3弾アイキャッチ) 論文解説

🌍 Available in EnglishAre the Factors Behind Burnout Different for Boys and Girls? — A 2025 Study on Sport Motivation in 638 Adolescent Athletes

「あんなに頑張っていたのに、急に来なくなって……」

指導現場で、保護者や指導者の方から、ふとした瞬間に聞く言葉があります。

「全国大会が終わったあと、燃え尽きたみたいに辞めてしまいました」

「練習はちゃんと来ているんですが、最近、目に光がない感じがするんです」

「小学校までは一生懸命だった子が、中学でぱたっと続かなくなりました」

思春期のアスリートにとって「燃え尽き(バーンアウト)」は、勝ち負け以上に重い問題です。そして悩ましいのは、同じ練習・同じチームでも、燃え尽きてしまう子と頑張り続けられる子に分かれること。何がその差を生んでいるのか――今回は、この問いに踏み込んだ2025年の論文を紹介します。

結論から先にお伝えすると、「スポーツへの動機(モチベーション)」は燃え尽きを防ぐこと、そしてその効果は男子と女子で違っていた、ということが、思春期アスリート638名のデータから示唆されました。

ただし最初にお断りしておくと、今回紹介する研究は中国の専門スポーツチームに所属する10種目超の思春期アスリートを対象にしたもので、レスリング選手だけを扱った研究ではありません(サンプル中にレスリング選手は約6%含まれていますが、競技別の解析はされていません)。それでも、レスリングの現場に応用できる知見だと感じたため、丁寧に読み解いていきます。

研究の概要 ― 思春期アスリート638名を「動機」「メンタルタフネス」「生活満足度」で読む

取り上げるのは、Journal of Human Kinetics 誌に2025年に掲載された論文です。

Zhang H, Ma H. The Effect of Sport Motivation on Burnout in Adolescent Athletes-Chain Mediating Effect of Life Satisfaction and Mental Toughness. Journal of Human Kinetics Vol. 99, 239–252 (2025).
出典:https://doi.org/10.5114/jhk/201433

  • 対象:中国の専門スポーツチーム所属の思春期アスリート 638名(男子345名・女子293名、平均15.64歳)
  • 競技:陸上20%、バスケットボール15%、卓球10%、武術8%、体操7%、レスリング6%、カヤック5%、ウェイトリフティング5%、ボクシング4%、テコンドー3%、アーチェリー2% など(10種目超を横断)
  • 方法:質問紙調査(横断研究)。陝西省・河南省・北京市の複数チームで、2023年9月に実施。
  • 測定した4つの心理指標:スポーツ動機(MPAM-R)/生活満足度/メンタルタフネス/アスリート・バーンアウト

「スポーツ動機」を、5つの方向で測る

研究で使われた「スポーツ動機」は、5つの方向(健康・外見・楽しさ・能力・社交)から測られています。「なぜそのスポーツをやっているのか」を、勝つため/結果のためだけに絞らず、健康になりたい・上達したい・仲間が好き・体を動かすのが楽しい、といった内側に近い動機も含めて捉えるのがポイントです。

キーワード:「メンタルタフネス」と「生活満足度」

メンタルタフネスは、強くたたかれても折れない・粘れる・立ち直れる、といった心の弾力性のことを指します。生活満足度は、競技だけでなく日常生活全体に対する満足の度合いです。

この論文は、「スポーツ動機」が「メンタルタフネス」と「生活満足度」を通して、燃え尽きを抑えるという経路を、性別ごとに分けて分析しています。難しい言葉では「連鎖媒介モデル(chain mediation model)」と呼ばれる解析手法です。要するに「AがBを通してCを動かすのか」を、たどって調べる方法だと考えていただければと思います。

結果 ― 男子と女子で、「燃え尽きを防ぐ経路」が違っていた

結果は、はっきりと男女で分かれました。

共通点:スポーツ動機は、男女ともに燃え尽きを抑える方向に働いた

  • 男子:スポーツ動機とバーンアウトの相関 r = −0.523、p < 0.01(負の相関=動機が高いほどバーンアウトが低い)
  • 女子:スポーツ動機とバーンアウトの相関 r = −0.491、p < 0.01

男女どちらも、「スポーツへの動機が高い子は、燃え尽きにくい」という大まかな関係は同じでした。

違い:「何が動機と燃え尽きをつないでいるか」が男女で違った

ここからが、この論文の最大の発見です。「スポーツ動機 → 燃え尽き」を結ぶ経路は、論文では以下の3つの経路に分解されています。

  • 経路①:動機 → 生活満足度 → 燃え尽き
  • 経路②:動機 → メンタルタフネス → 燃え尽き
  • 経路③:動機 → 生活満足度 → メンタルタフネス → 燃え尽き(連鎖媒介)

この3つの経路の「影響度」を男女別に見ると、次のような違いが出ました。

男子:ほぼ「メンタルタフネス経路」一本

  • 経路②(メンタルタフネス経由):間接効果 −0.174、全体に占める割合 46.52%
  • 経路③(連鎖媒介):間接効果 −0.072、19.25%
  • 経路①(生活満足度のみ):有意ではなかった

男子では、「動機 → メンタルタフネス → 燃え尽き抑制」がメインでした。生活全体が満たされているかどうかよりも、「打たれ強さが育っているか」が燃え尽きの分かれ目を強く左右した、という読み方ができます。

女子:3本すべての経路が影響している

  • 経路①(生活満足度のみ):7.15%
  • 経路②(メンタルタフネスのみ):25.12%
  • 経路③(連鎖媒介):7.32%

女子では、「生活満足度の経路」も独立して機能しており、3つの経路すべてが燃え尽きを防ぐ方向に働いていました。男子のように「メンタルタフネス一本」ではなく、競技外の生活が満たされていることや、その満足が打たれ強さに転換されることまで含めた、複数のルートが関わっていたわけです。

また、相関は男女ともに有意でしたが、総効果としては女子のほう(−0.601)が男子(−0.374)より大きく、女子のほうがスポーツ動機の高低が燃え尽きに与える影響が全体として強く出ました。

なぜ、男子と女子で「経路」が違ったのか

論文では、この男女差の解釈として、次のような議論が紹介されています。あくまで仮説として読んでください。

  • 論文の中で男女差について説明されているのは、主に女子側についてです。論文では「女子は主観的幸福感への感受性が高く、生活満足度を心の支えとして頼りやすい傾向がある」という心理的な解釈が示されています。男子側で「メンタルタフネス経路がなぜ突出したのか」については、Zhang & Ma の論文自体は明示的には踏み込んでいません。
  • 研究者として補足するなら、これまでのスポーツ心理学やジェンダー研究の文脈では、男子は「タフであること」「弱音を吐かないこと」が文化的に強く求められやすい、という議論があります。それが今回の結果にも背景として影響している可能性は考えられますが、あくまで原典の外側の一般的な議論として読んでください。

これは中国のサンプルでの結果であり、日本にそのまま当てはまるとは限りません。ただ、「男子と女子では、燃え尽きを防ぐための“入り口”が違うかもしれない」という視点そのものは、現場で選手と接するうえで考える価値のある問いだと思います。

私個人の経験でも、女性のほうがレスリング以外の影響(学校生活、友人関係の悩み、家族のこと)が大きかったように感じます。

レスリングの現場で、どう応用できるか

繰り返しになりますが、この研究はレスリング選手だけを対象にしたものではありません。サンプルに約6%レスリング選手が含まれているとはいえ、競技別の解析もされていません。それでも、応用のヒントになる点はあります。

① 選手・保護者の方へ ― 「動機の中身」を一緒に考える

研究で測られていた「動機」は、勝ちたい・結果を出したいだけではありません。健康・上達・楽しさ・仲間――この5つの方向がすべて含まれます。

子どもが「最近モチベが上がらない」と言ったとき、「勝ちたい気持ち」だけを問い直しても答えは出にくいかもしれません。

  • 「最近、練習で“うまくなった”って感じる瞬間ある?」(能力)
  • 「一番楽しいのは、どんなときだった?」(楽しさ)
  • 「仲間とどう過ごしてる?」(仲間)

5つの方向のうち、どのモチベーションが下がっているのか?それを一緒にほどくことが、燃え尽きの入り口で立ち止まる手がかりになるかもしれません。

② 男子選手のまわりの大人へ ― 「メンタルタフネス」をどう育てるか

男子で特に影響していたのは「メンタルタフネス」の経路でした。とはいえ、メンタルタフネスは「とにかく耐えろ」「弱音を吐くな」では育ちません。むしろ、

  • 小さな挑戦と小さな成功体験を、量として積ませる
  • 失敗したあと、「何がうまくいかなかった?次どう変える?」と一緒に振り返る
  • 感情を押し殺すのではなく、「悔しい」「怖い」を口に出していい場をつくる

こうした回復可能な失敗の反復が、メンタルタフネスを育てると考えられています。連載第1弾「レスリングは『心を強くする』?」で紹介した思春期男子のRCTも、まさに「小さな失敗が繰り返し発生する」競技としてのレスリングの効果を示唆していました。

③ 女子選手のまわりの大人へ ― 「競技外の生活」も視野に入れる

女子で特徴的だったのは、「生活満足度」の経路が独立して影響を与えていたことです。練習中だけを気にかけていても、女子選手の燃え尽きは防ぎきれないかもしれない、という示唆を与えてくれます。

  • 学校生活・友人関係・家族の時間は十分とれているか
  • 「競技と勉強と人間関係」を全部抱えて消耗していないか
  • 競技を離れた時間に、本人なりに「満たされる時間」があるか

これは、女子だけの話ではなく、男子にも当然大事な視点です。ただ、男子のデータでは「メンタルタフネス」のほうが目立って寄与していたため、つい競技内の負荷だけに目が行きやすい男子こそ、生活全体の充実を見落とさないように、と読み直すこともできます。

④ 指導者の方へ ― 「同じ言葉」が男子と女子で違うように届く可能性

指導現場では、男女混合のチームでも、同じ言葉でかけることが多いと思います。今回の研究を参考にするなら、

  • 男子には:「打たれ強さの育成」につながる声かけ(失敗の振り返り・挑戦の機会)
  • 女子には:「競技外の生活も含めた充実」にも目を向ける声かけ(学校・家族・休養)

という強調点の置き方の違いが、燃え尽きの予防には意味があるかもしれません。もちろん「男子はこう、女子はこう」と単純に二分するのは危険ですので、個人差のほうが大きいことを前提に、参考程度に受け取っていただくのがよいと思います。

この研究の限界 ― 読むときに気をつけたいこと

なお、原典の論文には明示的な「Limitations」のセクションは設けられていません。それでも、この研究を読むうえで、研究者として誠実に補足しておくべき留意点があると私は考えています。以下の5点は、原典の Method・Discussion・Implication パートから読み取れる、研究デザイン上の留意点として整理したものです。

  • 横断研究である:ある時点で一度に質問紙を取ったデータです。「動機が高いから燃え尽きにくい」のか、「燃え尽きていないから動機が保たれている」のか、因果の向きを厳密に決められません。
  • 自己報告データ:すべて選手自身が答えた質問紙です。「自分はタフだ」「満足している」と答える傾向(社会的望ましさ)が結果に混じっている可能性があります。
  • 中国の専門スポーツチームのサンプル:文化的背景や育成システム、ジェンダー役割の捉え方は国によって異なります。日本のレスリング現場にそのまま当てはまるかは別の検証が必要です。
  • 競技別の解析がない:10種目超を一括で扱っており、レスリング選手だけを取り出した分析はされていません。レスリング固有の身体接触や階級制競技であることが結果にどう影響するかは、別の研究を待つ必要があります。
  • 男女差の解釈はまだ仮説段階:「男子はメンタルタフネス経路、女子は3経路」という違いが、生物学的なものなのか、文化的に強化された行動様式なのかは、この論文の範囲では区別できていません。

「男子はとにかくタフに、女子は生活全体を、と分けて指導すれば燃え尽きが防げる」と単純に読むのではなく、「燃え尽きてしまう要因は、ひとつだけではないかもしれない」「同じチーム内でも、効果的な支援の在り方が違う可能性がある」くらいの距離感で受け取るのが、誠実な読み方だと思います。

現場で感じてきたこと

これまで、小学生から大学生まで、いくつかの現場でレスリングの指導に携わってきました。「急に来なくなる選手」を経験した指導者は、決して少なくないと思います。

振り返ってみると、辞めた理由を本人が自分の言葉で説明できないことが多かった気がします。「なんとなく続けられなくなった」「気づいたら気持ちが入らなくなっていた」――燃え尽きは、ある日突然来るのではなく、たいてい少しずつ来るものです。今回の研究を読み直すと、その「少しずつ」を見逃さないために、選手の心の状態を「動機」「メンタルタフネス」「生活満足度」という3つのレンズで観察してみることには、十分意味がありそうに感じます。

まとめ ― 「勝つため」以外の、続けるための価値

この論文が示したのは、スポーツへの動機は燃え尽きと関連していること、そしてその「要因」が男子と女子で違っていたことでした。

勝たせること、強くすることはもちろん大事です。でも、勝つ前に、まず続けられること。続けられた先に、勝つ機会も成長の機会もやってきます。「どうやったら燃え尽きを防げるか」を考えることは、勝つため以外のもうひとつのスポーツの価値――競技から何を持ち帰れるか――を守ることにつながると、私は思っています。

男子と女子でその要因が違うかもしれない、というのは、「同じ言葉が、同じように届くとは限らない」ということでもあります。目の前の一人ひとりを、3つのレンズ(動機・打たれ強さ・生活の充実)で見直してみる。今回の論文は、そのきっかけを与えてくれる一本でした。

参照論文

  • タイトル:The Effect of Sport Motivation on Burnout in Adolescent Athletes-Chain Mediating Effect of Life Satisfaction and Mental Toughness
  • 著者:Zhang H, Ma H
  • 掲載誌・年:Journal of Human Kinetics, Vol. 99, 239–252 (2025)
  • DOI:https://doi.org/10.5114/jhk/201433
  • PMID:41245963

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第1弾:レスリングは「心を強くする」? ― 思春期男子30名のRCTを読む
第2弾:「やらされ感」を減らすひとつの方法 ― 親の関わり方が、子どものスポーツでの行動を変えるとき

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