🌍 Available in English:2026 World Championships in Astana: Yoshida Arash Wins Silver and Aoyagi Yoshinosuke Bronze in Men’s Freestyle – All 10 Weight Classes Through the MSW Lens
はじめに
2026年のシニア世界選手権が、カザフスタンのアスタナで開催されました。男子フリースタイルは10月29日から11月1日までの4日間。57、61、65、70、74、79、86、92、97、125kgの全10階級で、世界一が決まりました。決勝は、10月30日が2階級(65、97kg)、31日が4階級(61、70、86、125kg)、11月1日が4階級(57、74、79、92kg)でした。
日本勢は、銀1・銅1の計2個のメダルを獲得しました。97kg級の吉田アラシ選手が銀メダル、74kg級の青柳善の輔選手が銅メダルです。金メダルは、ありませんでした。
本記事では、UWW(世界レスリング連合)の公式データをもとに、全10階級の金メダリストの勝ち方を MSW という指標で比べます。あわせて、階級ごとの結果と、日本代表の戦いぶりを振り返ります。
MSWとは ― 試合時間まで使う「勝ち方の質」の指標
MSW(Most Successful Wrestler)は、UWW Performance Data Analysis の Slacanac博士が提唱する指標です。同じ金メダルでも、「どれだけ短い時間で、どれだけ大きな差をつけて、どんな勝ち方で」勝ち上がったかは、選手ごとに違います。MSWは、その違いを1つの数字にまとめます。
- MSW = WQ + CPdiff
- WQ… 1分あたりの得失点差。(得点の合計 − 失点の合計) ÷ 全試合の合計時間(分)で計算します。
- CPdiff … 1試合あたりのCP差。(CP獲得の合計 − CP失点の合計) ÷ 試合数で計算します。CPは勝ち方で決まる勝ち点で、VFA(フォール勝ち)= 5点、VSU(10点差がついて終了するテクニカル勝ち)= 4点、VPO(判定勝ち)= 3点です。VSU1・VPO1のように「1」がつく場合は、負けた側にも得点があり、負けた側に1点が入ります。
要するに、WQは「どれだけ点差を広げたか」、CPdiffは「どれだけ質の高い勝ち方を重ねたか」を表します。短い時間で大差をつけ、フォールやVSUで勝ち上がるほど、MSWは高くなります。
今回は、UWW公式データの試合ごとの記録から、金メダリスト48試合すべての試合時間を確認できました。そのため、本来のMSWで計算しています。試合時間は、試合時計の終了時間です。判定勝ち(VPO・VPO1)は、公式記録上の6:00をそのまま使いました。棄権や失格で終わった試合は、実際に競い合った試合ではないため、計算から除外します。今回の金メダリスト48試合には、棄権や失格で終わった試合はありませんでした。
金メダリストのMSWランキング
10人の金メダリストを、MSWの高い順に並べました。
| 順位 | 階級 | 国 | 選手 | 試合 | 合計時間 | TP(得点-失点) | CP(獲得-失点) | MSW |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 125kg | IRI | ZARE Amir Hossein | 4 | 14:51 | 42-0 | 16-0 | 6.83 |
| 2 | 57kg | USA | LEE Spencer | 5 | 13:31 | 49-12 | 21-1 | 6.74 |
| 3 | 74kg | RUS | SHERIEV Inalbek | 6 | 21:47 | 47-5 | 23-2 | 5.43 |
| 4 | 65kg | USA | BASSETT Bowen | 5 | 18:26 | 50-16 | 19-3 | 5.04 |
| 5 | 79kg | USA | HAINES Levi | 5 | 22:05 | 30-7 | 18-3 | 4.04 |
| 6 | 86kg | USA | DAKE Kyle | 6 | 30:27 | 45-14 | 20-5 | 3.52 |
| 7 | 70kg | RUS | IBRAGIMOV Ibragim | 5 | 26:54 | 29-6 | 16-3 | 3.46 |
| 8 | 97kg | USA | SNYDER Kyle | 4 | 22:17 | 23-8 | 13-2 | 3.42 |
| 9 | 92kg | RUS | GADZHIMAGOMEDOV Amanula | 4 | 23:58 | 28-9 | 13-4 | 3.04 |
| 10 | 61kg | IRI | MOHAMMADNEZHADJAVAN Ahmad | 4 | 24:00 | 25-14 | 12-4 | 2.46 |
※ TPは試合で取った得点の合計、CPは勝ち方による勝ち点の合計です。MSWは、UWW公式データの試合ごとの記録から計算し、小数第2位で四捨五入しています。
注目ポイント
1. 1位は125kg級のZARE選手 ― MSW 6.83
イランのZARE Amir Hossein選手が、MSW 6.83で1位になりました。2位のLEE選手(6.74)とは、約0.1点差です。4試合で得点42、失点0。CPも16-0で、4試合すべてがVSUでした。4試合の合計時間は、14分51秒です。10人の金メダリストのうち、1点も失わなかったのはZARE選手だけです。決勝は、KURBANOV選手(RUS)に11-0のVSUで、3分56秒で勝っています。
2. 2位は57kg級のLEE選手 ― MSW 6.74
アメリカのLEE Spencer選手が、MSW 6.74で2位に入りました。5試合で得点49、失点12。CPは21-1です。5試合すべてが、フォール(VFA)かVSU(VSU・VSU1)での勝利で、合計時間は13分31秒でした。
決勝は、BRAVO YOUNG選手(MEX)に10-0のVSUを、わずか0分25秒で勝利しました。準決勝は、5-10とリードされた状態から、4分16秒でフォール勝ちしました。
3. 日本は銀1・銅1 ― 吉田アラシ選手と青柳善の輔選手
97kg級の吉田アラシ選手は、決勝でSNYDER Kyle選手(USA)と4-4の同点になり、惜しくも敗れて銀メダルでした。ビッグポイントの差での惜敗です。準決勝は、TAZHUDINOV選手(BRN)に3-6とリードされた展開から、2分38秒でフォール勝ちしています。
74kg級の青柳善の輔選手は、準決勝でKAIPANOV選手(KAZ)に1-3で敗れましたが、銅メダル戦でBAYRAMOV選手(AZE)に11-0のVSUで、2分37秒で勝ち、銅メダルを獲得しました。
両者ともにラスト数秒の勝負でした。見ていて、「惜しい!!」と叫びたくなるような試合でしたね。
4. 金メダルは3か国だけ ― アメリカ5、ロシア3、イラン2
10階級の金メダルは、アメリカが5つ(57、65、79、86、97kg)、ロシアが3つ(70、74、92kg)、イランが2つ(61、125kg)でした。メダルの総数は、アメリカが9、ロシアが9、イランが6、日本が2です。
5. 決勝10試合のうち8試合が判定
決勝10試合のうち、8試合が6分間を戦い切っての判定(VPO1)でした。判定でなかったのは、57kg級のLEE選手(10-0、0分25秒)と、125kg級のZARE選手(11-0、3分56秒)の、いずれもVSUの2試合だけです。点差が1点だった決勝は、79kg級が4-3、86kg級と92kg級が3-2の3試合。97kg級は4-4の同点で、決着は判定でした。
6. MSW最下位は61kg級のMOHAMMADNEZHADJAVAN選手 ― 2.46
イランのMOHAMMADNEZHADJAVAN Ahmad選手は、MSW 2.46で10位でした。4試合すべてが、6分間を戦い切っての判定勝ち(VPO1)で、合計時間は24:00です。スコアは、10-9、3-2、3-1、9-2。決勝以外の3試合は、2点差以内の接戦でした。
階級別ハイライト
全10階級の金・銀・銅と、決勝のスコア・決着型です。スコアは優勝者の得点が先で、国はUWW公式の国コードです。
| 階級 | 金 | 銀 | 銅 | 決勝 |
|---|---|---|---|---|
| 57kg | LEE (USA) | BRAVO YOUNG (MEX) | MUTALIEV (RUS) / HAN (PRK) | 10-0 VSU(0:25) |
| 61kg | MOHAMMADNEZHADJAVAN (IRI) | UGUEV (RUS) | BLAZE (USA) / KIM (PRK) | 9-2 VPO1 |
| 65kg | BASSETT (USA) | TEVANYAN (ARM) | MAGOMEDOV (RUS) / AMOUZADKHALILI (IRI) | 9-1 VPO1 |
| 70kg | IBRAGIMOV (RUS) | AKMATALIEV (KGZ) | RETHERFORD (USA) / TUMUR OCHIR (MGL) | 5-2 VPO1 |
| 74kg | SHERIEV (RUS) | KAIPANOV (KAZ) | 青柳 善の輔 (JPN) / YAZDANICHERATI (IRI) | 10-4 VPO1 |
| 79kg | HAINES (USA) | NOKHODILARIMI (IRI) | KHANIEV (RUS) / KADZIMAHAMEDAU (BLR) | 4-3 VPO1 |
| 86kg | DAKE (USA) | DZHIOEV (AZE) | SHAVAEV (KGZ) / GAMKRELIDZE (GEO) | 3-2 VPO1 |
| 92kg | GADZHIMAGOMEDOV (RUS) | HIDLAY (USA) | MAISURADZE (GEO) / TCOKAEV (AZE) | 3-2 VPO1 |
| 97kg | SNYDER (USA) | 吉田 アラシ (JPN) | YAZDANI (IRI) / SADULAEV (RUS) | 4-4 VPO1 |
| 125kg | ZARE (IRI) | KURBANOV (RUS) | HENDRICKSON (USA) / MESHVILDISHVILI (AZE) | 11-0 VSU(3:56) |
各階級の見どころです。
- 57kg級(出場34人):LEE選手が優勝しました。5試合すべてがフォールかVSUで、決勝は10-0のVSU(0分25秒)です。MSWは2位の6.74でした。
- 61kg級(出場27人):MOHAMMADNEZHADJAVAN選手が優勝しました。決勝はUGUEV選手(RUS)に9-2のVPO1。MSWは10位の2.46です。
- 65kg級(出場32人):BASSETT選手が優勝しました。決勝はTEVANYAN選手(ARM)に9-1のVPO1です。準々決勝は、MAGOMEDOV選手(RUS)に14-13で勝つ大接戦でした。MSWは4位の5.04です。
- 70kg級(出場24人):IBRAGIMOV選手が優勝しました。決勝はAKMATALIEV選手(KGZ)に5-2のVPO1。準々決勝では、日本の冨山悠真選手に5-0で勝っています。MSWは7位の3.46です。
- 74kg級(出場37人):SHERIEV選手が優勝しました。6試合を戦い、最初の4試合はVSUが3つとフォールが1つ。決勝はKAIPANOV選手(KAZ)に10-4のVPO1です。MSWは3位の5.43でした。日本の青柳善の輔選手は、準決勝でKAIPANOV選手に敗れたあと、銅メダルを獲得しています。
- 79kg級(出場30人):HAINES選手が優勝しました。決勝はNOKHODILARIMI選手(IRI)に4-3のVPO1で、1点差です。最初の2試合は、フォールとVSUで勝ち上がっています。MSWは5位の4.04です。
- 86kg級(出場41人、10階級で最多):DAKE選手が優勝しました。6試合を戦い、合計時間は30分27秒と、10人の金メダリストの中で最長です。決勝はDZHIOEV選手(AZE)に3-2のVPO1で、1点差でした。MSWは6位の3.52です。
- 92kg級(出場23人、10階級で最少):GADZHIMAGOMEDOV選手が優勝しました。準決勝と決勝は、ともに3-2のVPO1で、1点差です。決勝の相手は、HIDLAY選手(USA)でした。MSWは9位の3.04です。
- 97kg級(出場29人):SNYDER選手が優勝しました。決勝は、日本の吉田アラシ選手に4-4のVPO1。準々決勝のSADULAEV選手(RUS)との試合も4-4のVPO1で、2試合とも同点からの判定勝ちでした。MSWは8位の3.42です。
- 125kg級(出場30人):ZARE選手が優勝しました。4試合すべてがVSUで、決勝はKURBANOV選手(RUS)に11-0(3分56秒)。MSWは1位の6.83です。
日本代表の結果
日本代表は、9人が出場しました。79kg級の出場者は、いません。スコアは日本選手の得点が先です。
- 57kg 小川大和選手(日本体育大学):1/16決勝でBELOLYUBSKII選手(TJK)に3-1、1/8決勝でSTECHELE選手(GER)に4-0で勝ちました。準々決勝でBAZARGANOV選手(AZE)に2-12のVSU1(4分29秒)で敗れ、BAZARGANOV選手が決勝に進めなかったため、敗者復活戦には回れませんでした。
- 61kg 長谷川敏裕選手(三恵海運):予選でGANKHULEG選手(MGL)に8-4、1/8決勝でKERYMOV選手(UKR)に10-5で勝ちました。準々決勝でABAKAROV選手(ALB)に1-8で敗れ、ABAKAROV選手が決勝に進めなかったため、敗者復活戦には回れませんでした。
- 65kg 田南部魁星選手(ミキハウス):1回戦(1/16決勝)で、DUMAN選手(TUR)に3-3の同点から判定で敗れました。田南部選手は、男子グレコローマン63kg級にも出場しています。
- 70kg 冨山悠真選手(自衛隊体育学校):予選でAKHMEDOV選手(TJK)に3-0、1/8決勝でKEMERTELIDZE選手(GEO)に11-0のVSU(2分45秒)で勝ちました。準々決勝で、のちに金メダルを獲得するIBRAGIMOV選手(RUS)に0-5で敗れ、敗者復活戦でVASILE DIACON選手(MDA)に1-13のVSU1(3分55秒)で敗れました。
- 74kg 青柳善の輔選手(クリナップ):銅メダル。1/16決勝でBATUQINGGELE選手(CHN)に10-0のVSU(3分37秒)、1/8決勝でMOTTAGHINIA選手(ESP)に4-1、準々決勝でASLUEV選手(BRN)に5-2で勝ちました。準決勝で、のちに銀メダルを獲得するKAIPANOV選手(KAZ)に1-3で敗れましたが、銅メダル戦でBAYRAMOV選手(AZE)に11-0のVSU(2分37秒)で勝ちました。
- 79kg:出場なし。
- 86kg 岡澤ナツラ選手(慶應義塾大学):1回戦(1/16決勝)で、KADIEV選手(RUS)に3-9で敗れました。
- 92kg 金澤空大選手(早稲田大学):予選(1回戦)で、SHARIPOV選手(BRN)に5-13で敗れました。
- 97kg 吉田アラシ選手(三恵海運):銀メダル。初戦の1/8決勝で、のちに銅メダルを獲得するYAZDANI選手(IRI)に7-5、準々決勝でVICKY選手(IND)に12-2のVSU1(4分33秒)で勝ちました。準決勝は、TAZHUDINOV選手(BRN)に3-6とリードされた展開から、2分38秒でフォール勝ち。決勝は、SNYDER選手(USA)に4-4の同点で惜しくも敗れました。
- 125kg 山本泰輝選手(自衛隊体育学校):予選は不戦勝。1/8決勝で、BARAN選手(POL)に1-12のVSU1(4分51秒)で敗れました。
おわりに
2026年の世界選手権・男子フリースタイルで、日本は銀1・銅1の計2個のメダルを獲得しました。97kg級の吉田アラシ選手は、決勝を4-4の同点で惜しくも落としましたが、世界の2位です。74kg級の青柳善の輔選手は、準決勝で敗れたあと、銅メダル戦を11-0のVSUで勝ち切って、銅メダルをつかみました。
今大会、日本は男子グレコローマン、女子フリースタイル、男子フリースタイルを合わせて、金3・銀3・銅4の計10個のメダルを獲得しました。男子グレコローマンと女子フリースタイルの結果も、MSWで振り返っています。あわせてご覧ください。
- 【2026世界選手権 アスタナ】グレコローマン五味虹登選手が金 ― MSWで読み解く全10階級
- 【2026世界選手権 アスタナ】女子フリースタイル 須﨑優衣選手・清岡もえ選手が金 ― MSWで読み解く全10階級
MSWは、勝ち方の中身を知るための1つのものさしです。「誰が上か」を決めるためではなく、「どんな勝ち方だったのか」を知るために使っていただければ嬉しいです。
世界の舞台で戦った日本代表の選手たちに、大きな拍手を送りましょう!
書籍のご案内
著者(伊藤奨)が、現場・研究・コーチングの3つの視点からレスリングを読み直した書籍 『レスリングを探求する ― 科学と現場が導き出す「答えのない競技」の解剖図鑑 ―』(発売中)では、レスリングに必要な体力要素や考え方を1冊にまとめています。自分のレスリングを振り返りたい、我が子のレスリングの成長をサポートしたい方は、ぜひ手に取ってみてください。
Amazonで見る → https://www.amazon.co.jp/dp/B0HHQ1FDPG


コメント