「早生まれ」はレスリングで不利か?相対的年齢効果(RAE)を最新論文から考察

今回は2025年12月に発表された最新論文の紹介です。

タイトル:WHO HAS THE ADVANTAGE? RELATIVE AGE EFFECT AND
PERFORMANCE OUTCOMES IN U17 EUROPEAN WRESTLING
CHAMPIONSHIPS
著者:Tuba Melekoğlu & Burhan Demirkiran
雑誌情報:International Journal of Wrestling Science 2025; Vol 15 Issue 2

ジュニア世代のスポーツでは、同じ年齢カテゴリーであっても、生まれた月の違いによって有利・不利が生じることがあります。
この現象は「相対的年齢効果(Relative Age Effect:RAE)」と呼ばれ、成長期における選手選抜や才能発掘、競技成績に影響を与える要因として知られています。相対的年齢効果とは、同じ学年・同じ年齢区分であっても、
生まれた時期の違いによって「体の大きさ」「力」「経験値」に差が生まれ、結果として選抜や評価に偏りが生じてしまう現象を指します。

特に成長期においては、
「早く生まれた選手=能力が高い」と誤って評価されやすく、
本来は将来性のある選手が見過ごされてしまう可能性がある点が問題視されています。

今回紹介するのは、2025年に開催されたU17レスリング欧州選手権を対象に、RAEの影響を検討した研究です。本研究では、男子フリースタイル、男子グレコローマン、女子レスリングの3カテゴリーに出場した計558名の選手が分析対象となりました。

男子ではRAEが一定程度見られる

分析の結果、男子レスリング、特にフリースタイルにおいてRAEが確認されました
誕生月を4つの四半期(Q1〜Q4)に分けて検討したところ、Q1(1〜3月)生まれの選手が多く、Q4(10〜12月)生まれの選手は少ない傾向が示されました。

これは、同じU17カテゴリーであっても、誕生月が早い選手ほど身体的成熟度が高く、代表選抜の段階で有利に評価されやすい可能性を示唆しています。
グレコローマンでも同様の傾向は見られましたが、その影響はフリースタイルほど明確ではありませんでした。

女子レスリングではRAEは確認されない

一方で、女子レスリングではRAEは認められませんでした
誕生月の分布はほぼ均等であり、早生まれ・遅生まれによる選抜の偏りは見られません。

研究ではその理由として、競技人口の違いや、男女間で成長過程(第二次成長期)が異なること、また女子レスリングでは身体的要因以上に技術・戦術的要素が重視されている可能性が挙げられています。

体重別競技であることの意味

レスリングは体重別競技であるため、本来は他の非体重制競技と比べて、RAEの影響は出にくい競技だと考えられます。
実際、本研究においてもRAEの影響は限定的であり、特に女子では確認されませんでした。

それでも男子ジュニア世代で一定の偏りが見られたことは、成長期における身体的成熟度が、選抜過程に影響を及ぼしている可能性を示しています。ただしこれは、レスリングの競技構造そのものの問題というよりも、育成年代特有の評価の難しさを反映した結果と捉えることができます。

cut-offの違いが影響している可能性

なお、本研究では誕生月の区切り(cut-off)をUWWの年齢区分の区切りの目安となる1月1日として分析しています。
一方で、本研究の対象となった欧米諸国では学校教育における学年の区切りが、必ずしも1月ではなく、9月前後に設定されている国も少なくありません。

そのため、学校教育の中で生じた相対的年齢効果が、競技分析上では異なる形で反映された、あるいは相殺された可能性も考えられます。
今回RAEが限定的だった理由の一部は、レスリングという体重制競技の特性に加え、こうした教育制度との関係性にあるのかもしれません。

「選抜」と「成功」は別である

本研究で最も興味深かった点は、大会への参加(選抜)にはRAEが影響している可能性がある一方で、メダル獲得にはRAEが影響していなかったという点です。

実際に、表彰台に上がった選手のみを対象に分析すると、誕生月による有意な差は見られませんでした。
これは、最終的な成功を左右するのが、誕生月ではなく、技術、戦術、判断力、心理的強さ、そして継続的なトレーニングの積み重ねなどの要素であることを示唆しています。

まとめ

U17欧州選手権の分析から、RAEは特に男子選手の選抜過程に一定の影響を及ぼしている可能性が示されました。しかし、それは最終的な結果を決定づける要因ではありません。

体重別競技であるからこそ、最終的には体格差が是正され、レスリング本来の力が問われる。
この点は、レスリングが持つ公平性と、育成競技としての大きな強みだと言えるでしょう。

なお、「日本ではどうなのか?」と気になった方も多いのではないでしょうか。
日本は学年区切りや育成システムが欧州とは異なるため、相対的年齢効果の現れ方も違ってくる可能性があります。

この点については、現在執筆中の書籍のコラムで、国内データについても詳しく取り上げる予定です。
ぜひ、そちらも楽しみにしていただければと思います。

参考文献

タイトル:WHO HAS THE ADVANTAGE? RELATIVE AGE EFFECT AND
PERFORMANCE OUTCOMES IN U17 EUROPEAN WRESTLING
CHAMPIONSHIPS
著者:Tuba Melekoğlu & Burhan Demirkiran
雑誌情報:International Journal of Wrestling Science 2025; Vol 15 Issue 2

📖 書籍『レスリングを探求する』2026年9月 Kindle出版予定
発売通知はLINEでお届けします→ https://lin.ee/8AZvUga

🌐 詳しくはこちら→ https://wrestleinsight.com/book

コメント

タイトルとURLをコピーしました