【2026世界選手権 アスタナ】女子フリースタイル 須﨑優衣選手・清岡もえ選手が金 ― MSWで読み解く全10階級

世界選手権2026 アスタナ 女子フリースタイル MSWで読み解く全10階級 大会分析

🌍 Available in English:2026 World Championships in Astana: Japan’s Susaki Yui and Kiyooka Moe Win Women’s Freestyle Gold – All 10 Weight Classes Through the MSW Lens

はじめに

2026年のシニア世界選手権が、カザフスタンのアスタナで開催されました。女子フリースタイルは10月27日から30日までの4日間。50、53、55、57、59、62、65、68、72、76kgの全10階級で、世界一が決まりました。決勝は、10月28日が4階級(50、57、65、76kg)、29日が4階級(53、62、68、72kg)、30日が2階級(55、59kg)でした。

日本勢は、金2・銀2・銅3の計7個のメダルを獲得しました。10階級のうち、7階級でメダルです。金メダルは、50kg級の須﨑優衣選手と、53kg級の清岡もえ選手。銀メダルは、57kg級の永本聖奈選手と、62kg級の尾﨑野乃香選手。銅メダルは、55kg級の原田渚選手、65kg級の池畑菜々選手、72kg級の吉武まひろ選手です。

本記事では、UWW(世界レスリング連合)の公式データをもとに、全10階級の金メダリストの勝ち方を MSW という指標で比べます。あわせて、階級ごとの結果と、日本代表10人の戦いぶりを振り返ります。

MSWとは ― 試合時間まで使う「勝ち方の質」の指標

MSW(Most Successful Wrestler)は、UWW Performance Data Analysis の Slacanac博士が提唱する指標です。同じ金メダルでも、「どれだけ短い時間で、どれだけ大きな差をつけて、どんな勝ち方で」勝ち上がったかは、選手ごとに違います。MSWは、その違いを1つの数字にまとめます。

  • MSW = WQ + CPdiff
  • WQ… 1分あたりの得失点差。(得点の合計 − 失点の合計) ÷ 全試合の合計時間(分)で計算します。
  • CPdiff … 1試合あたりのCP差。(CP獲得の合計 − CP失点の合計) ÷ 試合数で計算します。CPは勝ち方で決まる勝ち点で、VFA(フォール勝ち)= 5点、VSU(10点差がついて終了するテクニカル勝ち)= 4点、VPO(判定勝ち)= 3点です。VSU1・VPO1のように「1」がつく場合は、負けた側にも得点があり、負けた側に1点が入ります。

要するに、WQは「どれだけ点差を広げたか」、CPdiffは「どれだけ質の高い勝ち方を重ねたか」を表します。短い時間で大差をつけ、フォールやVSUで勝ち上がるほど、MSWは高くなります。

今回は、UWW公式データの試合ごとの記録から、試合時間まで確認できました。そのため、本来のMSWで計算しています。試合時間は、試合時計の終了時間です。判定勝ち(VPO・VPO1)は、公式記録上の6:00をそのまま使いました。ただし、須﨑優衣選手の準々決勝の1試合だけは、公式データに試合時間の記録がなく、報道の時間を使用しました(ランキング表の下の注記をご覧ください)。棄権や失格で終わった試合は、実際に競い合った試合ではないため、計算から除外します。今回の金メダリスト41試合には、棄権や失格で終わった試合はありませんでした。

金メダリストのMSWランキング

10人の金メダリストを、MSWの高い順に並べました。

順位 階級 国 選手 試合 合計時間 TP(得点-失点) CP(獲得-失点) MSW
1 57kg CHN HONG Kexin 4 11:12 41-0 16-0 7.66
2 50kg JPN 須﨑 優衣 5 19:36 44-0 20-0 6.24
3 59kg IND MANISHA 4 21:00 30-8 16-1 4.80
4 76kg UKR ALPYEYEVA Anastasiya 4 17:39 33-11 15-2 4.50
5 65kg RUS KASABIEVA Alina 4 18:08 34-7 14-2 4.49
6 68kg CHN LONG Jia 4 18:05 31-5 14-2 4.44
7 62kg USA NWACHUKWU Adaugo 4 19:37 38-14 14-3 3.97
8 53kg JPN 清岡 もえ 4 24:00 30-3 12-2 3.63
9 72kg CHN LI Zelu 4 20:27 23-9 14-3 3.43
10 55kg USA LEYDECKER Everest 4 21:55 16-4 14-3 3.30

※ TPは試合で取った得点の合計、CPは勝ち方による勝ち点の合計です。MSWは、UWW公式データの試合ごとの記録から計算し、小数第2位で四捨五入しています。須﨑優衣選手の準々決勝の1試合(試合番号365)は、公式データに試合時間の記録がなく、レスリング・スピリッツが報じた5分37秒を使って計算しています。

注目ポイント

1. 1位は57kg級のHONG Kexin選手 ― MSW 7.66

中国のHONG Kexin選手が、MSW 7.66で1位になりました。2位の須﨑優衣選手(6.24)との差は、約1.4点です。4試合で得点41、失点0。CPも16-0で、4試合すべてがVSUでした。4試合の合計時間は、11分12秒です。決勝は、日本の永本聖奈選手に10-0のVSUで、3分30秒で勝利しています。

2. 須﨑優衣選手は2位 ― MSW 6.24

日本の須﨑優衣選手が、MSW 6.24で2位に入りました。内訳は、WQが2.24、CPdiffが4.00です。5試合で得点44、失点0。CPも20-0で、1点も許さずに金メダルを獲得しています。最初の3試合はVSU、準決勝は9-0の判定勝ち、決勝は5-0のフォール勝ち(2分14秒)でした。

 

3. 清岡もえ選手は10人中8位 ― MSW 3.63

清岡選手のMSWは3.63で、10人中8位でした。内訳は、WQが1.13、CPdiffが2.50です。

4試合すべてが、6分間を戦い切っての判定勝ちでした(VPO1が2試合、VPOが2試合)。合計時間は24:00で、10人の金メダリストの中で最長です。失点は、4試合でわずか3点(得点30、失点3)でした。

MSWは、「短い時間で大差をつける勝ち方」を評価する指標です。6分間の試合を4試合続けて勝ち切り、世界の頂点に立った清岡選手の価値を、この数字が下げるわけではありません。

4. 金メダルの国別 ― 中国3、日本2、アメリカ2

10階級の金メダルは、中国が3つ(57、68、72kg)、日本が2つ(50、53kg)、アメリカが2つ(55、62kg)でした。インド(59kg)、ウクライナ(76kg)、ロシア(65kg)は、各1つです。

5. 決勝10試合のうち8試合が判定

決勝10試合のうち、8試合が6分間を戦い切っての判定(VPO・VPO1)でした。判定でなかったのは、50kg級の須﨑選手のフォール勝ち(2分14秒)と、57kg級のHONG選手のVSU(3分30秒)の2試合だけです。点差が1点だった決勝も、3試合あります(62kg級が12-11、68kg級と72kg級が4-3)。

階級別ハイライト

全10階級の金・銀・銅と、決勝のスコア・決着型です。スコアは優勝者の得点が先で、国はUWW公式の国コードです。

階級 金 銀 銅 決勝
50kg 須﨑 優衣 (JPN) NEELAM (IND) FENG (CHN) / BAYANOVA (KAZ) 5-0 VFA(2:14)
53kg 清岡 もえ (JPN) YEPEZ GUZMAN (ECU) MALMGREN (SWE) / ANA (ROU) 6-0 VPO
55kg LEYDECKER (USA) KLIVCHUTSKA (UKR) 原田 渚 (JPN) / VERBINA (RUS) 4-1 VPO1
57kg HONG (CHN) 永本 聖奈 (JPN) MAROULIS (USA) / KURACHKINA (BLR) 10-0 VSU(3:30)
59kg MANISHA (IND) NETTE (USA) KHURELKHUU (MGL) / VYNNYK (UKR) 8-6 VPO1
62kg NWACHUKWU (USA) 尾﨑 野乃香 (JPN) DUDOVA (BUL) / TANDELOVA (RUS) 12-11 VPO1
65kg KASABIEVA (RUS) RINGACI (MDA) 池畑 菜々 (JPN) / FENG (CHN) 6-3 VPO1
68kg LONG (CHN) ZHUMANAZAROVA (KGZ) HANZLICKOVA (CZE) / BLADES (USA) 4-3 VPO1
72kg LI (CHN) CHOLUJ (POL) 吉武 まひろ (JPN) / SHARMA (IND) 4-3 VPO1
76kg ALPYEYEVA (UKR) KAJAL (IND) GUILFORD (USA) / ENKH AMAR (MGL) 8-6 VPO1

各階級の見どころです。

  • 50kg級(出場24人):須﨑優衣選手が優勝しました。決勝は5-0のフォール勝ち(2分14秒)で、5試合を無失点で勝ち上がっています。準決勝で須﨑選手に敗れたFENG選手は、銅メダル戦で10-0のVSU(0分37秒)で勝ちました。
  • 53kg級(出場21人):清岡もえ選手が優勝しました。4試合すべてが判定勝ちで、準決勝と決勝は、ともに6-0の完封でした。
  • 55kg級(出場17人):LEYDECKER選手が優勝しました。決勝は4-1のVPO1。準決勝では、日本の原田渚選手に6-1で勝っています。原田選手は、銅メダル戦でBLAYVAS選手(GER)に10-0のフォール勝ち(4分10秒)で、銅メダルを獲得しました。
  • 57kg級(出場24人):HONG選手が優勝しました。決勝の相手は日本の永本聖奈選手で、10-0のVSU(3分30秒)でした。永本選手は、予選から準決勝まで4連勝での銀メダルです。
  • 59kg級(出場18人):MANISHA選手が優勝しました。決勝は8-6のVPO1。4試合のうち2試合がフォール勝ちで、MSWは3位の4.80でした。
  • 62kg級(出場20人):NWACHUKWU選手が優勝しました。決勝は、日本の尾﨑野乃香選手に12-11のVPO1で、1点差でした。尾﨑選手は、準々決勝と準決勝を判定勝ち(4-1、2-1)で勝ち上がっての銀メダルです。
  • 65kg級(出場24人):KASABIEVA選手が優勝しました。決勝は6-3のVPO1です。銅メダルの池畑菜々選手は、準々決勝で、のちに銀メダルを獲得するRINGACI選手にフォール負けしたあと、敗者復活戦から銅メダル戦に進み、TUVSHINJARGAL選手(MGL)に9-0で勝ちました。
  • 68kg級(出場21人):LONG Jia選手が優勝しました。決勝は4-3のVPO1で、1点差です。最初の2試合は、VSUで勝ち上がっています。
  • 72kg級(出場15人、10階級で最少):LI選手が優勝しました。決勝は4-3のVPO1で、1点差です。準々決勝では、日本の吉武まひろ選手に9-4で勝っています。吉武選手は、敗者復活戦から銅メダル戦に進み、BAKBERGENOVA選手(KAZ)に6-4で勝って銅メダルを獲得しました。
  • 76kg級(出場20人):ALPYEYEVA選手が優勝しました。決勝は8-6のVPO1で、MSWは4位の4.50です。

日本代表の結果

日本代表は10人が出場し、10階級のうち7階級でメダルを獲得しました。スコアは日本選手の得点が先です。

  • 50kg 須﨑優衣選手(キッツ):金メダル。5試合で得点44、失点0でした。決勝は、NEELAM選手(IND)に5-0のフォール勝ち(2分14秒)です。準々決勝の1試合(試合番号365)は、公式データに試合時間の記録がなく、レスリング・スピリッツが報じた5分37秒を使って計算しています。
  • 53kg 清岡もえ選手(ALSOK):金メダル。4試合すべてが判定勝ちで、決勝はYEPEZ GUZMAN選手(ECU)に6-0で勝ちました。
  • 55kg 原田渚選手(育英大学):銅メダル。1/8決勝は10-0のVSU、準々決勝は3-0のフォール勝ち(3分44秒)でした。準決勝でLEYDECKER選手(USA)に1-6で敗れましたが、銅メダル戦でBLAYVAS選手(GER)に10-0のフォール勝ち(4分10秒)を収めました。
  • 57kg 永本聖奈選手(アイシン):銀メダル。予選から準決勝まで4連勝し、決勝でHONG選手(CHN)に0-10のVSU(3分30秒)で敗れました。
  • 59kg 山口夏月選手(自衛隊体育学校):予選(1回戦)でMAMMADOVA選手(AZE)に0-5で敗れました。MAMMADOVA選手が決勝に進まなかったため、敗者復活戦には進めませんでした。
  • 62kg 尾﨑野乃香選手(慶大OG):銀メダル。1/8決勝は10-0のVSU(1分34秒)、準々決勝は4-1、準決勝は2-1の判定勝ちでした。決勝でNWACHUKWU選手(USA)に11-12の1点差で敗れました。
  • 65kg 池畑菜々選手(育英大学):銅メダル。1/8決勝でMIRACLE選手(USA)に10-1のフォール勝ち(5分32秒)。準々決勝でRINGACI選手(MDA)に4-6でフォール負け(4分52秒)しましたが、敗者復活戦でRAJNITA選手(IND)に6-2、銅メダル戦でTUVSHINJARGAL選手(MGL)に9-0で勝ちました。
  • 68kg 石井亜海選手(クリナップ):初戦の1/8決勝で、PETLIAKOVA選手(RUS)に6-8でフォール負け(3分30秒)しました。
  • 72kg 吉武まひろ選手(長崎県レスリング協会):銅メダル。予選でZORIGT選手(MGL)に9-0のフォール勝ち(4分58秒)。準々決勝で、のちに金メダルを獲得するLI選手(CHN)に4-9で敗れましたが、敗者復活戦でBURAKOVA選手(RUS)に4-1、銅メダル戦でBAKBERGENOVA選手(KAZ)に6-4で勝ちました。
  • 76kg 松雪泰葉選手(ジェイテクト):予選(1回戦)でGRISKIENE GAUCAITE選手(LTU)に2-4で敗れました。

おわりに

2026年の世界選手権・女子フリースタイルで、日本は金2・銀2・銅3の計7個のメダルを獲得しました。須﨑優衣選手は、MSW 2位の6.24。5試合を1点も許さずに、金メダルをつかみました。清岡もえ選手は、4試合すべてが判定勝ちでMSWは8位の3.63でしたが、世界の頂点に立った事実は変わりません。

MSWは、勝ち方の中身を知るための1つのものさしです。「誰が上か」を決めるためではなく、「どんな勝ち方だったのか」を知るために使っていただければ嬉しいです。

日本代表の活躍を、これからもみんなで応援しましょう!


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