こんにちは。
Wrestling Lab を運営している伊藤奨です。
現在、**2025年12月にKindleで出版予定の書籍『日本レスリングの強さを解剖する』**を執筆中です。
このnoteでは、書籍の制作過程やレスリングに関する知見を、科学の視点からわかりやすく発信しています。
エリート男子レスリング選手のタックルは何が違う?
フリースタイルの試合でポイントを取るためにとても大切な「タックル」。特に、相手の両足を狙う「両足アタック」は、多くの選手が使う基本的な技です。
「うまい選手のタックルって、何が違うんだろう?」
そんな疑問を、科学的に調べた研究論文をご紹介します。今回解説するのは、山下先生らが2020年に発表した「Whole-Body Mechanics of Double-Leg Attack in Elite and Non-elite Male Freestyle Wrestlers(エリートと非エリート男子フリースタイルレスリング選手における両足タックルの全身のメカニクス)」という論文です。
この研究で調べたこと
エリートレベルの日本人男子レスリング選手(オリンピックメダリストを含む11名)と、日本の大学トップレベルの選手(非エリートグループ9名)の両足タックルを詳しく分析しました。
具体的にどう調べたの?
•体に特別なマーカーをたくさん付けて、ハイスピードカメラで体や体全体の重心の動きを細かく記録しました。
•足元に力の大きさを測れる「フォースプレート」という機械を設置し、地面をどれくらいの力で、どう蹴っているかを測りました。
簡単に言うと、「うまい選手とそうでない選手で、タックルの体の動きと地面を蹴る力にどんな違いがあるか」を調べました。
エリート選手の両足タックルの特徴
この研究で、エリート選手たちのタックルには、いくつか特別な特徴があることが分かりました。
•タックル全体の速さや移動距離は、実はあまり変わらなかった。
意外かもしれませんが、アタックが始まってから相手に接触するまでの全体の時間や、体全体が前に進む距離には、エリート選手と非エリート選手で大きな差はありませんでした。
•上半身(首の付け根あたり)が「途中」で速い!
エリート選手は、アタックを開始してから0.2秒~0.3秒あたりの「上半身が前に進む速さ」が、非エリート選手よりも明らかに速かったです。
この少しの速さの違いが、アタック開始から0.35秒の時点で、上半身の位置を0.08m(=8cm)も前に進めることに貢献していました。
•地面を「より強く」「より素早く」蹴り出していた!
エリート選手は、タックルのために後ろ足で地面を蹴る際、より大きな力(地面反力)を出していました。
しかも、その一番大きな力を出すまでの時間が、非エリート選手よりも短かったです。つまり、地面を「素早く、力強く」プッシュしていたということです。
•タックル後の姿勢が「安定」していた!
相手に接触した時、エリート選手は体全体の重心や股関節の高さが、非エリート選手よりも高かったです。
これは、体が下がりすぎず、相手から力を受けてもバランスを崩しにくい、安定した姿勢を保てていることを示唆しています。地面に対する垂直方向の力が大きいほど、滑りにくくなります。
この点について本文には記載されていない私の考察ですが
「エリート選手は上方向への意識が強い」可能性があるのではないか?と考えます。指導現場では頻繁に
「下に潰れるな」 「上で処理しろ」
という指導がなされます。これは、高い位置で処理することで4点を狙えるチャンスがあること、相手から返されるリスクが小さいことが考えられます。今回は受け手はディフェンスをしない、いわゆる「打ち込み」の実験設定ですが、それでもエリート選手は自分の姿勢を悪くすることなく、できるだけ高い位置で処理をしようとする意識が表面化したのではないか?と考えています。
上記の点については論文では触れられていない私の意見ですので、是非ご意見、コメントで皆さんの声も聞かせてください!
この研究からわかるエリート選手のタックルの特徴
エリート選手は、上半身を素早く前に動かし、同時に後ろ足で強く素早く地面を蹴り出すことで、相手がディフェンスする前に相手の足に到達できる可能性が高まります。
•全体の速さより、タックルの途中での「上半身の加速」が重要だということです。
•タックル後の安定した高い姿勢は、相手にタックルを返されたり、バランスを崩されたりするのを防ぐのに役立ちます。
過去の女子レスリング世界王者の研究では「小さな蹴り脚のステップバック」や「相手のバランスが崩れたタイミングでの仕掛け」が重要とされていましたが、今回の研究は、動作そのものの「質」や「効率」がエリート選手と非エリート選手を分けるカギであることを示しています。
女子レスリング選手のタックルの特徴についての記事は以下から
コーチや選手へのヒント
この研究は、ダブルレッグアタックという基本的な技術の中にも、エリート選手が持つ特別な「コツ」があることを教えてくれます。
•後ろ足で地面を「力強く、かつ素早く」蹴り出すトレーニングを取り入れると良いかもしれません。
•タックルで相手にぶつかった時に、体が沈み込みすぎず、安定した姿勢を保つことを意識しましょう。女子選手の研究の結果とも併せて考えると、身体の上下動はできるだけ少ないほうがいいと考えられます。できるだけ上下動の少ない効率の良い動きをすることが求められます。
基本的な動作に隠された「見えない凄さ」を理解し、意識することで、日々の練習がより効果的になるはずです。
📘 『日本レスリングの強さを解剖する』 は2025年12月にKindleで出版予定です。
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── 伊藤 奨
【参考文献】
Yamashita, D., Arakawa, H., Wada, T., Yumoto, K., Fujiyama, K., Nagami, T., & Shimizu, S. (2020). Whole-body mechanics of double-leg attack in elite and non-elite male freestyle wrestlers. Frontiers in sports and active living, 2, 58.
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