はじめに
2025年世界選手権、グレコローマンスタイルの全階級王者を対象に試合データを数値化しました。フリースタイルではタックルやスピードが重視されますが、グレコローマンは上半身の組み合いが中心。投げ技やグランドの攻防が勝敗を分けます。本記事では、フリースタイルと同じ6つの指標を用い、グレコローマンならではの“強さの質”を掘り下げます。
1分あたりの得点──組み合いの中で奪う得点力
攻撃力を示す「1分あたりの得点」で突出したのはイランのESMAEILI選手(67kg級)でした。彼は平均2.13点/分を記録し、スタンドでコツコツと得点し、試合を有利に進め、グランドでも着実に得点を重ねました。
同じくイランのFAROKHISENJANI選手(82kg級)も1.89点/分と高水準でした。スタンドでコツコツと得点し、グランドでもワンチャンスをしっかりものにして、ローリングで得点を重ねていました。両選手ともにスタンドでの圧力と、それを生かしたがぶってからのバックが非常に上手い印象を受けました。

1分あたりの失点──隙を見せない守備力
守備力を示す「1分あたりの失点」でトップに立ったのもイラン勢でした。FAROKHISENJANI選手(82kg級)も0.05点/分、ESMAEILI選手(67kg級)も0.06点/分とほぼ完璧に近い数字を残しています。
グレコローマンは、フリースタイルや女子レスリングとは異なりパッシブによる失点が入りやすい特性があります。それを踏まえてこの数値というのは、ほぼテクニカルポイントを取られていないといえるでしょう。防御力の高さを物語っています。

1分あたりの勝点(CPW)──勝ち方の内容
勝ち方を評価する「1分あたりの勝点」でもESMAEILI選手(67kg級)が3.80でトップでした。単純な得点力のみならず、「勝ち方」も優れていました。MIRZAZADEH選手(イラン・130kg級)**が上位に入りました。今回解析していて面白かったのは、MIRZAZADEH選手以外の優勝選手はフォールによる勝利がありませんでした。
Aticiら(2025)の先行研究によると、グレコローマンのほうがフリースタイルよりフォールでの決着が多いようですが、今大会では逆の様相を呈したのでしょうか?ちなみに女子が一番フォールでの決着が多いようです。
Atici, M., Demirli, A., Cesur, B., Isik, O., Talaghir, L. G., Cosoreanu, M. D., … & Neofit, A. (2025). A Technical–Tactical Analysis of Medal Matches in Wrestling: Results from the 2024 European Senior Championships. Applied Sciences, 15(14), 7673.
上記の論文では解析試合数が少ないため、この辺りに着目して今後も解析してみると面白そうですね。レスリングについて卒論を書きたいけど、なんか面白いことないかな??と考えているひとがもしいたら、卒論のネタにいかがでしょうか?(笑)

1分あたりの相手勝点(CPL)──徹底したリスク管理
「相手に与えた勝点」を測るCPLでは、ESMAEILI選手(67kg級)やFAROKHISENJANI選手(82kg級)が再び低数値を記録しました。相手に主導権を渡さず、失点を与えなかったことが数字に反映されています。
前述の通り、パッシブによる失点が発生するグレコローマンにおいてこれだけの数値は、安定した試合運びを反映しているといえます。

Wrestling Quality(WQ)──攻守のバランス
「得点/分 − 失点/分」で算出するWQでも、イラン勢が上位を独占しました。ESMAEILI選手(67kg級)は2.06、FAROKHISENJANI選手(82kg級)は1.85と高水準を記録。彼らの戦いは「高い得点力と強固な守備力」を両立しており、まさに理想の勝ち方といえるでしょう。

Most Successful Wrestler(MSV)──完成度の頂点
最後に、攻守のバランスに加えて勝ち方の内容まで評価するMSVを見てみます。ここでもESMAEILI選手(67kg級)がトップで5.67。攻撃力、守備力、勝ち方すべてを兼ね備え、今大会のグレコで最も完成度の高い王者であったことを証明しました。

イラン一強か?
今回の分析で浮かび上がったのは、グレコローマンにおけるイラン勢の強さです。ESMAEILI選手(67kg級)やFAROKHISENJANIは攻守にわたり突出し、世界の頂点を譲りませんでした。重量級ではMIRZAZADEHが失点はあるものの、フォール勝ちを含む安定した戦いで存在感を示し、伝統的に強いイランのグレコが健在であることを証明しました。
おわりに
フリースタイル、女子に続き、グレコローマンでもデータ分析を行いました。スタイルは違えど、数字が示す「強さの本質」は共通しています。それは「攻めて取り、守って抑え、勝ち方の内容で差をつける」ことです。
しかし、チャンピオンごとに、「失点の少なさ」を強みにしている選手もいれば、「得点力」を強みにしている選手もいます。
あなたが理想とするスタイルはどのチャンピオンに近かったでしょうか?
ぜひこれを機に、「データ」という側面からレスリングを考えてもらえると嬉しいです。新しい視点で自分の「強み」や「弱点」を再確認できるかもしれません。
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