砂浜ランニングは意味があるのか ― 夏合宿の定番メニューを14件の研究から見直す

技術・戦術

🌍 Available in EnglishDoes Beach Running Actually Work? Rethinking a Summer Camp Staple with 14 Studies


夏合宿のシーズンです。私は大学時代、和歌山の那智勝浦での合宿に参加していました。海辺の宿舎に泊まり、朝いちばんに砂浜へ出てランニングをする――普段とは違う足場であるため想像以上につかれるが、終わった後は海に飛び込んでリフレッシュする。今でもSNSでは、砂浜を走る選手たちの動画をよく見ます。

私自身も砂浜ランニングをやったことがありますが、その意義については「砂は沈むから脚力がつく」「マットの上で体が軽く感じられる」「柔らかいから怪我をしにくい」といった声を聞きます。今回は、そのヒントになる研究を紹介します。

先にお断りしておくと、紹介する研究はレスリング選手を対象にしたものではありません。砂上トレーニングの研究は球技が中心で、格闘技はテコンドーが1件のみです。それでも応用できる知見として読む価値はあると考えます。

主論文 ― 14件・337名をまとめたメタ分析

2026年2月に Frontiers in Physiology 誌で公開されたばかりの系統的レビューとメタ分析です。14件の研究・337名(女性47名・男性290名、12〜32歳)を対象に、砂の上でのトレーニングと芝など他の路面でのトレーニングを比べ、方向転換能力(Tテスト)と跳躍能力を評価しています。

方向転換は「経験者」で、立ち幅跳びは「未経験者」で差がつきました

全体をまとめた結果では、素早い方向転換を測るTテストで砂のグループが良い結果を示しました(SMD = −0.80、p = 0.04。SMDは単位の違う測定値をそろえて比べる指標です)。立ち幅跳び(水平方向への跳躍)でも砂浜でトレーニングした群のほうが伸びています(SMD = 0.85、p = 0.004)。

ただし著者らはトレーニング経験の有無で分けた分析も行っており、そこで結果が分かれます。方向転換で有意な差が出たのは経験者だけ(SMD = −1.44、p = 0.002)で、未経験者では有益性が見られませんでした。反対に立ち幅跳びで有意な差が出たのは未経験者だけ(SMD = 0.68、p = 0.005)で、経験者では有意差がありません。

レスリング選手は「経験者」にあたります。つまり、この記事の読者に当てはまりそうなのは方向転換のほうだけで、立ち幅跳びの伸びは経験者には当てはまらない可能性が高いということです。なお方向転換の分析は研究間のばらつきが大きく(I² = 80%)、どの研究でも同じように伸びたわけではありません。

垂直方向の跳躍は、むしろ砂が不利かもしれません

いったん沈み込んでから跳ぶカウンタームーブメントジャンプ(CMJ)でも、反動を使わないスクワットジャンプでも、砂と他の路面で差はありませんでした(SMD = 0.10、p = 0.57/SMD = 0.16、p = 0.39)。

さらに Binnie 2014(総説)によれば、跳躍系のトレーニングを比べた Impellizzeri 2008 では芝のほうがCMJの伸びが大きいという結果でした(芝は5.5cm超、砂は2.4cm超)。総説は、砂でCMJが低くなる理由を弾性エネルギーの再利用の低下と足の滑りに求め、砂は伸張反射を使う動き(SSC)の適応には不向きかもしれないと述べています。

補足です。このメタ分析は砂のグループと他の路面のグループを比べる設計なので、「差がなかった」は砂では伸びなかったという意味ではありません。両方とも伸びたうえで、伸び幅に差がなかった可能性も残ります。

合宿の文脈で参考になるのは「1回のセッションの反応」です

このメタ分析に含まれる研究の多くは数週間から8週間かけた介入ですが、夏合宿は多くの場合数日から1週間程度。合宿で起きているのは1回ごとの体の反応と、その積み重ねです。

前提 ― エネルギー消費は増えますが、その差は速度で変わります

Binnie 2014(総説)によれば、砂の上を走ると硬い地面よりエネルギー消費が増えます。ただしその差は速度で変わり、走行(時速8〜11km)では1.2〜1.6倍、歩行(時速3〜7km)では1.8〜2.7倍です。走る速度が上がるほど砂と芝の差は縮まる傾向があるとも述べられています。

 

1回のセッションで、体にかかる負荷(Cetolin 2021)

Cetolin 2021 は、U-23の男子サッカー選手に高強度の間欠的な運動(HIIE)を砂と芝で行わせて比べました。下の表はそのセッション中と直後に測った値です。重要なのは被験者がわずか7名の小規模な研究だという点です。

指標 差の大きさ
血中乳酸 10.76 ± 2.37 mmol/L 5.48 ± 1.13 mmol/L d = 2.84
主観的なきつさ(RPE) 8.00 ± 0.91 4.95 ± 1.23 d = 2.82
最大酸素摂取量に対する割合 94.58 ± 2.73% 87.45 ± 3.31% d = 2.35
最大心拍数に対する割合 93.89 ± 2.63% 90.31 ± 2.87% d = 1.30

「いつもと同じメニュー」のつもりでも、砂の上では体にかかる負荷が同じではない、ということです。ただし7名の研究ですから、細かい桁ではなく方向性を読むにとどめます。

この研究では別に、漸増負荷テスト(Carminatti’s test)も行っています。そこで測った到達速度は、芝の 15.23 km/h に対して砂は 13.89 km/h、8.41%低い値でした。総説も、砂の衝撃を吸収する性質そのものがスプリントの最大速度と跳躍の発揮を制限すると述べています。

筋へのダメージ ― 「砂は体に優しい」とは限りません

砂は衝撃を吸収するので、筋へのダメージや筋肉痛が小さくなる、という見方があります。総説によれば、4週間の跳躍系トレーニングを比べた Impellizzeri 2008 では、砂のほうが筋肉痛の評価が有意に低いという結果が出ています(P < 0.001)。

ただし、話はそこで終わりません。総説は、実際のチーム練習に近いコンディショニングを砂と芝で行わせた研究(Binnie 2013a・2013b)では、筋損傷の指標であるミオグロビン、筋肉痛、翌日のパフォーマンス回復のいずれにも差が見られなかったとも報告しています。砂では相対的な強度が高くなり接地の回数も多くなるため、「衝撃が小さい」という利点が打ち消される可能性がある、という説明です。合宿の砂浜ランニングは、こちらの状況に近いはずです。

さらに総説は、運動による筋のダメージと炎症の反応そのものが、筋の修復と適応に必要な刺激である可能性にも触れています。砂でこの反応が抑えられることは、良いことばかりとは限りません。「砂は体に優しいから良い」という理解は、いったん保留が妥当です。

「怪我の予防になる」と言えるのか

最もよく聞く期待が「地面が柔らかいから怪我をしにくい」です。しかし、これを裏づける証拠は今回調べた範囲では見つかりませんでした。砂上トレーニングが傷害の発生率を下げたことを示すランダム化比較試験を確認できていません。衝撃が小さいことと、怪我が減ることは別の話です。

逆に「アキレス腱を痛めやすい」という指摘も、査読を経た論文では数値を確認できていません。良い方向にも悪い方向にも断定できる証拠がそろっていない。それが現時点の正直な答えです。

この研究の限界

  • レスリング選手を対象にした研究がない:レスリング特有の姿勢や組み合いを含む状況を調べたデータはありません。
  • サンプルが小さい:1回のセッションの反応を調べた Cetolin 2021 は7名です。メタ分析337名のうち女性は47名だけです。
  • 一部は総説を通じた二次情報です:本文で触れた Zamparo 1992、Pinnington & Dawson 2001、Impellizzeri 2008、Binnie 2013a・2013b などは Binnie 2014(総説)の記述を紹介したもので、原著を直接確認していません。また、砂上トレーニングにはこの記事で扱っていない研究もあります。全文を確認できたものだけを根拠に書いています。

指導者が実施時に気をつけるポイント

  • 同じメニューでも、砂では同じ負荷になりません:トラックや体育館のメニューを同じ本数で砂に持ち込むのは避けたほうがよいでしょう。本数を減らし、選手の主観的なきつさを確認しながら進めます。連日の合宿では、後半ほど減らす判断が必要です。
  • 目的に合った日に砂浜ランを設定する:持久的な体力を高めたい日に砂を選ぶ根拠は一定あります。一方、スピードやキレを出したい日には向いていません。
  • 砂の状態が変われば、別のメニューになります:総説によれば、砂と芝のエネルギーコストの差は約1.2倍(Zamparo 1992)から約1.5倍(Pinnington & Dawson 2001)と開きがあり、砂の粒の細かさ・水分・深さ・締まり具合の差によると説明されています。乾いた深い砂と波打ち際の締まった砂では、同じ本数でも負荷が変わります。私もよく波打ち際の固い砂の上を走っていました(笑)
  • 暑熱環境への配慮(これは研究の話ではなく、安全管理の話です):今回紹介した論文は、いずれも暑い環境での実施を扱っていません。夏の砂浜は日陰がほとんどなく照り返しもあり、そこに砂による負荷の増加が重なります。気温の低い早朝など時間帯を選ぶ、給水と休憩を通常以上の頻度で確保する、日陰を事前に確認する、選手の様子を短い間隔で確認する。判断基準は、環境省や日本スポーツ協会の熱中症予防の指針に置いてください。

まとめ ― 勝つため以外の価値

砂浜ランニングは、意味があるかないかで割り切れるものではありませんでした。方向転換では他の路面より良い結果につながり、それは経験者で見られた差です。一方、立ち幅跳びの伸びは未経験者だけのもので、垂直方向の跳躍では差がなく、個別の研究ではむしろ芝が伸びていました。筋へのダメージが小さくなるかどうかも、実際の練習に近い条件では差が消えています。怪我の予防になるという証拠も見つかりませんでした。

数週間かけた研究が示した変化を、そのまま数日の合宿に持ち込んで期待することはできません。何のために砂を選ぶのか。目的がはっきりしていれば使い道のある手段ですが、あいまいなまま「合宿らしいから」で本数を重ねると、負荷だけが増していきます。

合宿の砂浜ランニングには、体力測定の数値には表れない側面があります。普段とまったく違う場所で、仲間と競争し、走り終えて海へ飛び込む。その時間が競技力にどう関連するかを示した研究はおそらくないでしょう。しかし、何年も経ってから選手が思い出すのは、そういう場面ではないでしょうか。

砂浜ランニングを「勝つための手段」としてだけ評価すると、答えははっきりしません。それでも合宿のメニューに残っているのは、勝つため以外の価値がそこにあるからかもしれません。数値で測れないものに意味がないわけではない――研究の限界を並べたあとだからこそ、そう書いておきたいと思います。

参照論文

主論文:

  • Wang T, Zhai H, Yan H, Zhou Y, Li Z, Wei H, Geng Q. Dose-response relationships of sand training compared to other surface training in improving change of direction and jump performance: a systematic review and meta-analysis. Front Physiol. 2026;16:1737074. https://doi.org/10.3389/fphys.2025.1737074

補助的に参照した論文:

  • Cetolin T, Teixeira AS, da Silva JF, Haupenthal A, Nakamura FY, Castagna C, Guglielmo LGA. High-Intensity Intermittent Exercise Performed on the Sand Induces Higher Internal Load Demands in Soccer Players. Frontiers in Psychology 2021;12:713106. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2021.713106
  • Binnie MJ, Dawson B, Pinnington H, Landers G, Peeling P. Sand training: a review of current research and practical applications. Journal of Sports Sciences 2014;32(1):8-15.(本文中の「Binnie 2014・総説」)https://doi.org/10.1080/02640414.2013.805239

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Wrestle InSightは、元レスラー × コーチ × 研究者という三つの立場から、レスリングを「科学の視点」で読み解くメディアです。運営は伊藤奨(南山大学講師)。マットの上で積み上げた経験と、大学で積み上げた研究の両方を行き来しながら、「なんとなく」で流れていく情報に、一歩深い視点を置きに行きます。

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