私とレスリング
伊藤 奨(いとう しょう)
1996年3月生まれ
長崎県島原市出身
4歳のとき、父や兄の影響でレスリングを始めました。
小学校・中学校は地元のレスリングクラブで活動し、
高校は長崎県立島原高校へ進学しました。
その後、早稲田大学に進学し、レスリングを続けました。
大学卒業後は大学院へ進学し、
レスリングに関する研究を行いながら、
早稲田大学レスリング部のコーチとして選手の指導にも携わりました。
大学院修士課程修了後は福岡大学に就職し、
レスリング部の指導に励みました。
現在は南山大学で教鞭をとりながら、
レスリングに関する研究をコツコツと続けています。
レスリングを『考える競技』だと感じた原点
小・中学生の頃は体つきに恵まれていたこともあり、
全国大会で優勝、準優勝といった結果を残すことができました。
しかし高校に入ると、
周囲の選手も成長期に入り、筋力がついてくる中で、
それまでと同じレスリングでは勝てなくなることに気づきました。
また、長崎県出身ということもあり、
関東の大学へ遠征できる機会は年に二回ほどに限られていました。
その環境の中で、
「限られた条件の中で、どう工夫すれば勝てるのか」
を考えるようになりました。
大学に進学してからも、
先輩たちの強さや、練習で扱われる技術レベルの高さに
圧倒される毎日でした。
そんな中で、
「自分の強みは何か」
「勝つ確率を高めるために、どんな戦い方を選ぶべきか」
を常に考えながら練習に取り組みました。
大学入学当初は毎日が苦しく、
泣きそうになりながら過ごしていましたが、
徐々に結果が出るようになり、
大学2年時にはインカレで3位に入賞することができました。
これらの経験を通して、
レスリングはただがむしゃらに努力するだけではなく、
考えながら、正しく努力することが必要な競技なのではないか
と感じるようになりました。
この気づきが、
大学院でレスリングを研究しようと考えた
一つのきっかけになっています。
環境と向き合う中で育った視点
これまでを振り返ると、
私のレスリング人生は、
決して恵まれていなかった環境の中だけで
進んできたわけではありません。
高校時代は指導者に恵まれ、
大学では日本でもトップレベルの環境で
競技に取り組むことができました。
良い練習環境や、強い選手、質の高い指導に触れられたことは、
自分のレスリング人生において大きな財産だと感じています。
一方で、そうした環境に身を置くようになるほど、
自分で考えなければならない場面が
むしろ増えていったようにも思います。
与えられたメニューをこなすだけでは足りず、
「この練習を自分はどう活かすのか」
「今の自分にとって、何を優先すべきか」
といった判断を、常に求められるようになりました。
環境が整えば、自動的に強くなれるわけではありません。
むしろ選択肢が増える分だけ、
自分で取捨選択をし、責任を持って決断する必要が出てきます。
その中で、レスリングは
「環境に委ねる競技」ではなく、
与えられた環境をどう活かすかが問われる競技
なのだと感じるようになりました。
この視点は、
その後に指導者として選手と向き合う際や、
研究としてレスリングを捉えるようになってからも、
変わらず自分の中に残っています。
どんな環境であっても、
考えることを止めない。
その姿勢こそが、
競技を続ける上で最も重要なのではないかと考えています。
立場が変わっても、変わらなかったこと
競技者としてレスリングに向き合っていた頃、
私は常に「どうすれば勝てる確率を高められるか」を考えていました。
練習の意図や試合の組み立てを、自分なりに整理し、
納得できる形で積み重ねていくことが重要だと感じていたからです。
指導者という立場になってからも、
この考え方は大きく変わりませんでした。
選手に技術や戦術を一方的に教えるのではなく、
「なぜこの練習を行うのか」
「今の状況で、どんな判断が考えられるか」
を一緒に考えることを意識してきました。
研究者としてレスリングを捉えるようになってからも同様です。
数値やデータを扱う場面が増えましたが、
目的は「正解を示すこと」ではありません。
競技者や指導者が、
自分の経験を振り返り、
正しいデータ=考え直すための材料
を整理することにあります。
立場が変わるにつれて、
見る景色や求められる役割は変わりました。
しかし一貫して大切にしてきたのは、
結果だけで判断せず、
その背景にある思考や選択に目を向けることでした。
レスリングは、
誰かの答えをそのまま当てはめれば
うまくいく競技ではありません。
だからこそ、
考えることを他人任せにせず、
自分の言葉で整理し続けることが重要だと感じています。
この姿勢は、
競技者としてだけでなく、
指導者や研究者としてレスリングに関わる今も、
変わらず自分の中にあります。
分析で『答えを出さない』理由
研究や分析という言葉には、
「正解を示すもの」「結論を出すもの」
といったイメージがつきまといます。
実際、スポーツの現場でも
「このやり方が正しい」「これをやれば勝てる」
といった答えが求められる場面は少なくありません。
しかし、レスリングという競技に向き合う中で、
私は次第に、
分析の役割は答えを出すことではない
と感じるようになりました。
レスリングは、
相手や状況、体格、戦術、ルールなど、
さまざまな要素が絡み合う競技です。
同じ選手であっても、
同じ試合展開が再現されることはほとんどありません。
そうした競技特性を考えると、
一つの「正解」を提示すること自体が、
必ずしも現実的ではないと感じています。
私が分析で大切にしているのは、
結論を押しつけることではなく、
考えるための材料を整理することです。
何が起きていたのか、
どんな選択肢があり得たのか、
その結果、何が生じたのか。
こうした情報を構造的に整理することで、
競技者や指導者が
自分自身の経験を振り返る手助けができると考えています。
これは、
「考えることを分析に任せる」ためではありません。
むしろ、
考える責任を自分の手に取り戻すための分析です。
データや映像は、
判断を代行するものではなく、
判断の根拠となる材料にすぎません。
だからこそ私は、
分析の場で「このやり方が正しい」と
断定的な答えを出すことを避けています。
代わりに、
「どう考えられるか」
「何を基準に判断するか」
といった問いを残すことを重視しています。
レスリングにおいて本当に重要なのは、
誰かの答えを覚えることではなく、
自分で考え、選び、修正し続ける力です。
分析は、その力を育てるための
一つの手段であるべきだと考えています。
競技経験を、将来につなげるという視点
レスリングに本気で向き合う時間は、
決して長いものではありません。
多くの選手にとって、
競技人生には必ず終わりが訪れます。
だからこそ私は、
勝敗や結果だけで競技経験を終わらせてしまうのではなく、
その過程で何を考え、何を選び、何を学んできたのか
に目を向けることが大切だと感じています。
試合に向けた準備や判断、
うまくいかなかった選択、
迷いながら出した決断。
それら一つひとつは、
言葉にして振り返ることで、
競技の先にも持ち運べる「経験」になります。
競技中は必死で、
自分が何を考えていたのかを
はっきり覚えていないことも多いかもしれません。
それでも、
振り返り、整理し、言語化しようとすることで、
経験は単なる思い出ではなく、
次の行動を支える土台になっていきます。
Wrestle InSightでは、
こうした視点を大切にしながら、
レスリングに関わる人が
自分自身の経験を見つめ直し、
考えを深めるきっかけを提供したいと考えています。
勝つために本気で考えたレスリング経験を、
競技人生の中だけで終わらせず、
その先の人生にもつなげていく。
それが、
Wrestle InSightが目指している在り方です。
Wrestle InSightでは、
こうした考え方をもとに、
レスリングに関わる人が
自分の経験を振り返り、整理するための
さまざまな取り組みを行っています。
具体的な活動内容については、
サービスページで紹介しています。
経歴
競技歴
全国小学生レスリング選手権大会 2位
全国小学生選抜レスリング選手権大会 1位
全国中学生レスリング選手権大会 2位
全国中学生選抜レスリング選手権大会 2位
インターハイ 団体 3位
JOC杯 カデット 2位
アジアカデット 3位
全日本学生選手権 3位
全日本社会人選手権 3位
指導歴
ワセダクラブ レスリングディビジョン(小学生) コーチ
早稲田大学レスリング部 コーチ
福岡大学レスリング部 コーチ、監督
研究歴
レスリングや柔道に関する論文を執筆
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